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【2020/05 秘匿】⑦

あ、そうなんだ。言ってないんだ。おれのこと嫌いならバラして「こんなやつ呼ぶことない」って突っ撥ねたってよかったんじゃないの?つまんないことで優明を傷つけるまいと思ってくれたんだろうな。南はいいお兄ちゃんだなあ。 などと思いながらベッドで再び仰向けに倒れ、再びゴロゴロしてだらける。本日中すぐに届けてもらえるサービスで頼んだ配達があるが、さっき起きて頼んでそんなそんな直ぐは流石に来ないだろう。 よく考えたら昨日朝プロテイン摂って以降、飲み物を多少飲んだくらいで何も口にしていない。とりあえずルームサービスでも頼むか。鯛パンシアードのシェルフィッシュクリームに蟹ピラフ添え、シーザーサラダのオマール海老のグリル添え、どっちにしよう。エビ食べたいしサラダでいいか。 飲み物は…水はないのか…しょうがないジンジャーエールでいいや。でも、ウィルキンソンじゃないんだろうなあ…。食べ物が三千円くらいするのはいいけど、飲み物だけで千円オーバーはなんかモヤるなあ。まあ夜には頼んだの届くから一回位いいけどね。 備え付けの端末で肉類は一切食べないことを申し添えてフロントにオーダーして、またベッドでゴロゴロし始めるも、バイブレーションと液晶画面のバックライトの明かりが着信を報せた。スマートフォンを手にして表示を確認すると、そこにはふみのアカウントからのメッセージが表示されていた。 慌てて起き上がって、全文を確認する。 「お前の家に行ったけど応答がなかった。何処に居る?」 急いでホテルと部屋番号の情報を返信したが、既読にはなったものの返事が来ない。 「寧ろふみは今どこなの」 続けて送ってみたが、今度は待てど暮らせど既読にさえならない。 そもそもそりゃ言えるわけがないか。 そうは思うものの、もどかしさとか苛立ちは抑えきれない。おれはスマートフォンを隣のベッドに投げつけ、ベッドの掛け物を剥いで潜り込んだ。眠れるでもなく中でぼんやりしていると、どのくらい時間が経ったのか、チャイムが鳴った。 ドアスコープで確認すると、ルームサービスで頼んでたものがワゴンで運ばれてきていた。施錠を解除して係の人を招き入れ、料理をテーブルに置いてもらった。退室してひとりになってから椅子に腰掛けて、窓の外を眺めながら食事を摂る。 そろそろ日勤の人間がいなくなって、夜間勤務に入る頃だ。長谷はどうしているだろう。ハルくんもそろそろ明けの仮眠から覚めてどっか飲みに行く頃かなあ。てか、お母さんのとこに報告にでも行ったかなあ。 てか、ほとぼりが冷めてこのホテルから出て戻ったら、お母さんに呼ばれるだろな。怒られるよなあ、絶対。 すっかり胃に収めて、再びベッドに戻って寝転がる。その後、ウトウトする度にフロントからの連絡があり、宅配業者が来たので荷物をどうするかという遣り取りを繰り返した。一番遅い時間でも22時までなので、22時で締め切ってまとめて部屋に運ぶよう伝えた。 おれはその時間まで暇を持て余して、風呂に浸かってみたり、部屋で柄にもなくストレッチしたり、テレビをあてもなくザッピングしながら流し見たりしていた。 22時過ぎに係の人がまとめて持ってきた荷物を全て受け取って、ルームサービスの食事の食器類も下げてもらった。開封して中身を確認して取り出し、それぞれ使う場所、あるべき場所にセットした。 先輩は忙しいらしく、合間にメールしたらまだ仕事していた。おれも仕事があればいいんだけど、仕事するには不十分な状態だし、そろそろ日付も変わる。おとなしく寝るか。 そう思ってテレビを消して、部屋の照明を落としてベッド脇の間接照明を灯したところで、ドアをノックする音がした。

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