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【2020/05 復元】⑥

「おい、長谷、これも撮っておいてくれ」 「はい」 署内の鑑識班と本店の捜査第四課と鑑識課も同行しての捜査になった。当然その中には、おれの先輩の長谷秀明の倅、長谷久秀もいた。 一眼のデジタルカメラを示された場所に向けてシャッターを切ると、確認のために液晶ファインダーをこちらに向けた。 横に並んでみると、普段スーツやオフィスカジュアルっぽい服装だとあまり感じなかったが、やはりえらくガタイがいい。着痩せするタイプのようだ。 外国人である母親譲りのはっきりとした目鼻立ちで、色白で雀斑のある顔は体の割に小さい。腕や足、そして首が長く、手足の肘や膝から先が細いことがそのように見せているように思う。 しかも尖った雰囲気や棘がなく、柔和で丁寧な物言いをする。正直制服を着てなければ警察官とは思えない。その辺りは実に父親によく似ている。 そして、静かだが勘がよく、物事を判断するスピードが早い。目をつけたことに対しての嗅覚が鋭い。これはアスリートだった故なのだろうか。 「オーケー、じゃあ引き続き頼む」 確認した画像を確認し、再び周囲の撮影と微物の確認に戻るよう伝えた。まだ見習い状態で明確な係を割り当てられていないため、逆にできることは多いらしく、本人は能動的に職務にあたっている。 こいつの父親、長谷秀明は、高校卒業後警察学校を出て交番勤務となり、その後も本人の希望ともあって、異動はあれど原則として所属する署の地域課で、極々普通の街のお巡りさんをしていた。 それが一変したのがあの、藤川、いや、小高家の事件だった。 軽微な単独接触事故の処理を終えた長谷は、無線で近くの団地の管理者からの通報があった旨の連絡を受けて、そのまま急行し最速で到着した。待っていた管理者が預かっていた予備のマスターキーで施錠を解除し、現場に踏み込んだ。 そこで収納の奥で寝具に潜ったまま餓死仕掛けていた少年を発見し、インフラが止まった状態になっていたその部屋の冷蔵庫に、腐敗した遺体の一部を発見した。署に連携し応援を求め、救急車を手配して引き継いで、自身の仕事は終わった。 その後、捜査自体は当時の署の刑事課が行なったが、捜査が進むうち長野県と東京都を跨いだ広域事件となったため、本店が主体となり大規模なものになっていった。自身では何も関わることができなかったのだ。 このことにより、それまで、子供の頃から街のお巡りさんを目指して、その仕事に充足を見出していた長谷秀明は捜査に携わることを希望し、昇格試験の受験と試験異動を願い出、それなりの段取りを踏んで中途で刑事になった。 異動で同じ署になって、刑事係と組織対策係は同じフロアで、しかもその業務の性質上連携が必要になったり、絡みが発生することが多々あった。 おれは働くうち、堅実でスマートな長谷久秀という人物に信頼を置くようになり、長谷もカタギじゃない人間が絡む件になるとおれを頼ってくれるようになった。 職務の合間に時間ができると、個人的な話もした。よく自分が育った環境のことも言っていた。そして、時にはあの事件のことも引き合いに出し、なんでもないごく普通の家庭、家族関係こそがクローズドである故に危ないと長谷はよく言っていた。 しかし、自身の家庭においても同じであることに、長谷は気がつくことができなかった。 母親が脱会したはずのカルトに再度取り込まれて、あの倅がそこに巻き込まれていた。そしてそこで行われていたおぞましい出来事、受けていた性暴力にも、気づくことができていなかったのだ。 性的指向自体は、それ以前からだと話したそうだが、それ自体も本当かどうかわからない。 但、進学先で性的暴行や性行為の強要、金銭の要求などを受けていたことが発覚し進路が絶たれるまでの長い間、少年だったこの子が、周囲の複数の大人の男から代わる代わる、性的に搾取され続けていたことだけは事実だった。

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