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第57話

「ちゃんと自分の弱い部分と向き合って乗り越えようとする課長を俺はかっこいいと思いますよ」 「そんなことない」  卑怯な俺に対してそんな風に言ってもらうのは居たたまれなかった。視線を下にむける。  大賀はくすりと笑うと、俺の瞼に口づけを落とした。 「たっ、大賀」  いくら大賀がスキンシップが過剰とはいえ、これはやりすぎではと俺は頬を赤くし、困惑した。  大賀は慌てている俺の方が変だとばかりに俺の頭を平然と撫でている。  そういえば弟の冬もしょっちゅう俺の頬に口づけたり、俺の体を撫でまわしたりしてきたっけ。  友達の少ない俺にはよく分からないが、距離感の近い人間にとってはこれくらい当たり前の触れ合いなのかもしれない。  俺はそう考えると、大賀の気持ちいい掌の感触に身を委ねるように、そっと目を閉じた。 「課長。気負わずにいきましょう。大丈夫。課長には俺がついてますから」  頼もしい言葉のおかげで俺の胸に明かりが灯った気分になる。 「ありがとう。大賀」  大賀はそれから長い時間、俺の背中をゆっくりと撫でてくれた。  渋谷さんの復帰当日、俺は気合を入れて、いつもより早く出社した。  大賀まで俺に付き合って、出社時刻を早めてくれた。  早朝、まだ暖房の入っていない冷たい空気の中、部署の扉を開ける。 「課長」  渋谷さんが自分の座席から立ち上がる姿が視界に映る。  いつも遅刻ギリギリで出社する彼女がもう来ているとは想像もしておらず、俺は目を見開いた。  そんな俺の困惑をよそに、渋谷さんがこちらに駆けてくる。 「あのっ、本当にすみませんでした。私が軽率な行動とったばかりに、皆さんにご迷惑をおかけして」   叫ぶようにそう言い、頭を90度以上の角度で下げる彼女の勢いに押され、俺は一歩後ずさった。  そんな俺の腰に長い腕が絡まり、支える。 「大丈夫。俺がついてるから」   俺にだけに聞こえるように、大賀が耳元で囁く。  俺はその言葉に安心して大きく息を吐いた。  俺の腰を掴んでいた大賀の手を外し、渋谷さんに歩み寄る。

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