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大賀剛士の日常7
もちろん歴代の彼女たちのことを剛士は可愛いと思って付き合っていた。
だが澤山が言うように、その子だけ特別に可愛いかと尋ねられれば答えは否だ。
振られるとき、別れたくないと懇願した経験も剛士は皆無だった。
その執着のなさがセックスにも表れるのか、大体一度達すると剛士は満足してしまう。
もとから剛士は性欲も薄く、ベッドで自分を求めるように言った彼女は『アルファのくせになんなの』と続け、そのまま泣きだしてしまった。
「まあ、どうでもいい女ならそこまで一緒にいたいとも思えねえよな」
「どうでもいいとは思ってない」
澤山の言葉にかちんときた剛士が声を少し荒げると、細めた眼で澤山が剛士を見た。
「いや、お前はどうでもいいって思ってんだよ。友達も彼女もそこそこ大切なくらいで、だからみんなを平等に愛せるんだ。本気の恋愛っていうのはそんなもんじゃない。自分でも怖いくらい相手を求めてしまう」
そう呟くと澤山は立ち上がった。
「悪い。ちょっと酔ったわ。トイレ」
そう言いおいて、居酒屋の個室から澤山は出て行ってしまう。
「なんだよ。あれ」
あっけにとられて剛士は呟いた。
澤山はたまに意地の悪いところもあるが、基本的には相談にも乗ってくれる頼れる奴だった。
「澤山、失恋したみたい」
「失恋?澤山が?」
目黒が小さく頷いた。
甘いマスクでアルファということもあり、澤山は剛士以上にモテていた。
ただし飽きっぽい性格らしく、恋人がコロコロ変わる。
それでも澤山と付き合いたいと言う女性は後を絶たなかった。
「俺も信じられないけど、それらしいこと剛士が来る前澤山が言ってたよ。一目惚れだったけど、ダメだったって」
あの澤山を振るなんてどんな相手だろうと気にかかったが、剛士はトイレから戻ってきた澤山には何も尋ねなかった。
澤山の表情はよく見ると冴えなくて、とても聞ける雰囲気ではなかった。
澤山も先ほどの失言を悔いているのか、それ以上恋愛話はせずに、最近みた映画の話などで3人で盛り上がり、その夜はお開きとなった。
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