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第76話
「課長のこと鈍い鈍いと思ってはいたんですけど、本当に俺の気持ちに気付いてなかったんですか?じゃあ、あのネクタイピンをくれたのは?」
「ネクタイピン?あれは服のプレゼントの礼だって言ったろ。祖父が選んだから、俺と違って趣味も悪くないはずだ。あれがどうかしたか」
首を傾げる俺の前で大賀がポカンと口を開ける。
「祖父が選んだって……あんなのくれるから、俺は両思いだとばかり……」
ショックをうけたのか呟く大賀の声は震えていた。
何かまずいことを言っただろうか。
青白い顔をした大賀の肩に触れると、大賀ががばっと顔を上げた。
「分かりました。もうそのことはいいです。とにかく課長、いえ唯希さん、俺と付き合ってください」
俺は目を見開いた。
「別に昨夜のできごとにお前が責任を感じる必要はない」
「ああっ、もう違いますよ。俺はあんたが好きだから付き合いたいって言ってんの」
「大賀が俺を……好き?」
今度は俺が呆然とする番だった。
「好きじゃない相手の為に、早起きして弁当作ったり、洋服一式プレゼントしたり普通しないでしょ?言っておきますけど、歴代の彼女にだって俺は飯なんか作ってやったことないですからね。俺は周りが思うよりも面倒見がいいタイプじゃないんです。いいですか、課長。鈍いあんたにも分かるようにもう一度はっきり言うからちゃんと聞いておいてくださいね」
俺の両方の指先を握りしめると大賀が顔を伏せた。
「俺はあんたのどうしようもなく不器用で可愛らしいところに惚れました。その吸いこまれそうな海みたいな空みたいな色の瞳も堪らなく好きです。許されるならずっと唯希さんと俺は見つめあっていたい」
大賀はそう言うと伏せていた顔を上げた。
照れているのかその頬はうっすらとピンク色に染まっている。
「俺、一生貴方に尽くすつもりです。俺じゃだめですか?」
「あ……」
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