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第78話
「嫌です。俺はそんなに簡単に貴方を諦められない」
「大賀」
俺じゃない方が大賀が幸せになれると分かっているのに、俺は自分を抱きしめる温かい腕を振り払うことができない。
それでも、ちゃんと断らなくっちゃ。大賀の幸せのために。
俺が口を開こうとした瞬間、大賀が俺の両肩を掴んだ。
「課長の考えは分かりました」
突然大賀がにこりと微笑んだ。やけに嘘くさい笑顔に俺の背筋に悪寒が走る。
「俺は到底課長の考えは納得できませんけど、それはそれとして。課長の不安のあれこれ、俺が相手だったら解消できると思うんですよね。ええと、子供を作らないって課長は決めているんですよね?俺と課長なら子供のできる可能性はかなり低い」
大賀の言う通りアルファの男性同士の妊娠の確率はほぼゼロだ。相性のいいアルファ同士で性交を続けると男性アルファの腹の中にも子宮が形成される可能性はあるそうだ。
ただ実際その可能性は医学的に極めて低く『運命の番』と同様、都市伝説のような話だった。
「そうだな。だから俺と一緒にいたら、大賀は自分の子供を腕に抱くことが叶わないんだぞ」
いかにもいいパパになりそうな雰囲気の大賀から父親になる可能性を俺は取り上げたくはなかった。
「会ったこともない自分の子供の為に、今現在めちゃくちゃ好きな相手諦められるわけないでしょ」
めちゃくちゃ好きな相手という言葉に、勝手に俺の心拍数は跳ね上がる。
「それから愛する人間に課長が乱暴する?虫一匹殺せないような課長には到底無理だと思いますけど」
大賀が芝居がかった仕草で肩を竦めた。
「見てください」
いきなり大賀が腕まくりをして力こぶを作る。
硬く盛り上がったそれを見て、俺は目を見張った。
俺が同じようにしてもその三分の一の大きさにもならないだろう。
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