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第207話
大賀が俺の目の下の薄い皮膚を親指でなぞる。
「ここまで来ただけでも十分勇気のある行動だと俺は思います。きっとお義父さんに頼めばまた別の日に蔵元と会う機会は作れると思いますし」
俺は頬に触れている大賀の手にそっと自分の手を重ねた。
大賀の手はほんのりと温かく、俺の手は氷みたいに冷たかった。
「蔵元に会うのは怖いよ。怖くて堪らない。でもきっとここで帰ってしまったら、俺はまた正体の分からない蔵元に怯えて暮らす毎日に戻るだけだと思うんだ」
大賀は黙って俺をじっと見つめた。
「蔵元に会って俺は傷つくかもしれない。失望するかもしれない。でもそんなことになっても俺は1人じゃない。待っていてくれる大賀がいる。そう思っていいだろう?」
俺が泣き笑いのような表情を浮かべると、大賀が頬にそっと口づけた。
「そんなの当たり前じゃないか。俺はいくらだって唯希さんを待つよ」
「ありがとう」
感謝を伝えると、大賀は少し寂し気に笑った。
「それくらいしか俺にはできないし」
蔵元との面会が決まった時、大賀には『一緒に面会したい』と言われた。
だが俺はそれを断った。
大賀に守られながらではなく、一対一で蔵元に会いたかった。
しかしそう思えるのも、自分には帰る場所があるという前提のおかげだ。
「待っていてくれるお前がいるから、俺はあいつに会いに行けるんだよ。俺にとって大賀は最高のお守りだから」
大賀が微笑み俺の頭を撫でる。
「離れていてもしっかり守るからね」
大賀の言葉に俺は微笑んで頷いた。
自分とよく似た顔が、ガラスを隔てた向こう側に座っている。
俺はごくりと唾を飲むと、パイプ椅子に座った。
蔵元の髪の根元は俺と同じ金色で、瞳の色は俺よりももっと濃い紺色だった。
ふいに蔵元が口の端を上げる。
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