1 / 1
第1話
「ちょっと待て!!ちょっと待てよ!!」
怒り狂い剣を振り上げる相手に、言葉をかけるが、相手は止まらない。
ガギン
重い剣が城の石柱を削った。
パラパラと白い粉が舞い、再び剣が構えられる。
「死ね!!このろくでなし!」
きっと冷静な状態だったら無言で剣を振るうだろう兵士の一撃が、俺に当たらない。
婚約者を寝盗られ、怒りに震えているから逃げられるかも…。
俺に戦うという選択肢は無い。
剣術の訓練なんてうっすら付いた綺麗な筋肉を維持する程度にしかしていない。
前衛なんて出る気は皆無!かろうじて弓が引けるくらいだからな。
「ひぃぃ…待って!!待て!知らなかったんだ!婚約者がいるなんて!」
何としても衛兵が来るまで逃げ延びないと!
剣が使いにくそうな回廊へと飛び込んで走る。
「知るか!!お前も男なら戦え!」
絶対に勝てないのに戦うわけないだろう。
太陽の神の国、ロメオの戦士は大陸随一だ。鉄の鎧から溢れる鋼の肉体。
戦いを愛する好戦的な精神。
どれも自分の嫌いなものだ。
人生は短い。女性を愛し快楽を謳歌して、楽しく生きたい。
戦闘と戦争ばかりの人生なんてまっぴらだ。
「死ねぇぇ!!」
綺麗に染められた藍色の衣が後ろから掴まれ、引き寄せられた。
あぁ…終わりだ。
相手の剣が石の壁を擦り、俺の背を突き刺した。
とてつもない衝撃が俺の身体に走った。
「うぁぁあああ!!」
「クァイ!!」
回廊の先に現れた人がいる。
ロメオの戦士の中でも、誰よりも強く、俊敏で美しい獣。
黄金の髪に、空よりも青い瞳。
口元には斬りつけられた大きな傷跡が残り、美しいだけではない凄みを与えている。
太陽の神に愛されしアテム王だった。
最後に見る人間が、一番大嫌いなアテムだとは。俺は本当にツイてない。
俺と正反対で、まさに太陽の神に愛された戦士であり、博識の王様。
出来損ないの王族のはしくれである俺を嫌悪して遠ざけ、小言ばかりの従兄弟で幼馴染みの王。
そのアテムが見たこともない程、驚愕の表情を浮かべると、自らの腰に下げた剣を抜き、雄叫びをあげてこちらに走ってくる。
あぁ…まさか…兵士に後ろから刺されて死ぬなんて許さない!と俺をバッサリ切り殺すつもりか…。
「……ごほっ」
俺は逃げる事もできず口から血を吐いて、膝をついた。
一瞬耳が遠くなり、世界が無音になった。
怖いなぁ。俺死ぬのかぁ。
頭がぼんやりしてきて、痛いのに…痛くない…変な感じだ。
あんなに遠くにいたアテムが目の前に迫った。
「っ!!」
アテムの振り上げた剣が……俺に……
「ぐああっ!?」
俺に刺さらず、俺を掴んで刺している後ろの兵士に向かったようだ。
後から聞こえる叫び声が、俺を現実に戻した。
温かい血が降ってくる。
自らの血と、後ろの兵士の血で、真っ白な回廊は赤く染まった。
血の匂いが立ち込める。
「……クァイ!!大丈夫か!?」
そうか、さすがのアテムも目の前で幼馴染みを殺されたら、相手を斬るのか。
一応俺も王族だし。
アテムの硬い胸に抱きこまれ、あーあ、最後は女性の胸が良かったなと思う。
後ろの兵士が倒れた気配がする。
「医師を連れてこい!!早くしろ!!……くそぉ……クァイ……しっかりしろ!!」
アテムが俺を床に横たえた。
あれ?ちょっとは心配してくれるんだ……アテムは慈悲深いな。
「……さ…さむい……」
ロメオの国は温暖で、筋肉の発達した男ならば、一年中裸で過ごせるほどだ。
それなのにガタガタ震える。
貧血のように目の前が曇る。
「あぁ…クァイ……なんて事だ…かわいそうに……」
アテムが俺の手を握りしめる。
その大きな手は血で濡れている。
温かい…。
ぬくもりに縋るように、もう片方の手も何とか動かしてアテムの手を握った。
アテムの手が震えている。
「……アテム……助けてくれ……怖い……死にたくない……うぅ…あっ……」
自分が死ぬことはもうわかってるが、俺が死んで誰が悲しんでくれるのだろう。
母ですら俺を見捨てたのに…。
必死でアテムの手にすがった。血でヌルヌルする。
「……アテム……助けてくれ…」
目からは涙が流れて、鼻水も出てきた。
「…クァイ……大丈夫だ……クァイ……」
アテムの顔がぼんやりと見えた。
眉間の皺は深く刻まれ、黄金の髪が血に濡れ、乱れている。
いつになく幼馴染みが、取り乱している。
戦のときに5百の兵で、3千の敵に囲まれた時でさえ、面白い戦いになりそうだと笑っていたのに。
あぁ、そういえば、あの時「お前は邪魔をするな」と軍隊の武器を収めている箱に詰め込まれたんだった…俺は戦場に間違って入ってきた家畜か、と戦いたくはないけれど憤りを覚えた。
戦っている風に弓を構えて後ろに立っていようと思っていたのに。
「……こんど生まれるときは…アテムと……幼馴染みはいやだ……」
王族ではなく、普通のちょっと金持ちの商人の家がいい。
こんな神の息子みたいな男と比較されるのは御免だ。
「……クァイ……俺もだ……俺も……お前を…」
やっぱりアテムも俺が親族だなんて嫌だったのか。
知ってたけれど。最後くらいお前は誇らしい男だったとか気の利いたことが言えないのか。
いや、無いな。
色恋沙汰で刺された間男だもんな。
ははっ…と自分の情けなさを笑った。
眠くなってきたな。
「おい!!クァイ!!目を覚ませ!!待ってくれ!!……死ぬな……死なないでくれ!!」
何か叫んでいるアテムの声は、振動として俺の頬を揺らしたが、音は聞こえない。
「クァイ!!……俺を置いていくな……」
「……アテム……」
最後はアテムの腕に抱かれて目を閉じた。
思えば、残念な一生だった
良いのは見た目だけ。
ロメオ人らしいウェーブのかかった茶色い髪に、少し目尻の下がった大きな緑の瞳。シュッとした鼻に、薄い唇。ロメオ人の美人に求める要素を男の俺が全部持って生まれた。男の俺がだ…。
戦う男どもに飽き飽きした女性には非常に好評だったので良かったけれど…。
その女性関係で死んだから、何とも言えない
5年先に生まれたアテムが、神に愛された人間だったので、余計に俺の不出来は際立った。
「どうしてクァイはこんな事も出来ないのだ…」
あわよくばアテムを亡き者にして、俺を王位に…と考える父はとても厳しかった。
「アテム王子はこんな失敗はしない」
いつもアテムと比べられて叱られた。
小さいころは頑張ろうと努力した。
しかし無理だと悟った。
アテムはおかしい。
まともな人間じゃない。
一度、第2王子を身籠った側妃が暗殺者をけしかけて、アテムを殺そうと、一緒にいた俺ごと小屋に閉じ込めて、火を放たれた時。
「アテム!!どうしよう!!死んじゃうよ!!」
と泣いてアテムにしがみつき、俺はおしっこをもらした。
「……おまえは本当にどうしようもない…」
と俺を蔑んで、アテムは小屋の中の農具を振り回して脱出し、小脇に抱えた俺を池の中に放り込んだ。
そしてそのまま、側妃の元に乗り込んだのだろう。彼女には二度と会えなかった。
あの時…戦いを愛するアテムのペニスは、俺を馬鹿にしながら間違いなく勃起していた。
どうか次の世では、アテムには会いたくない。
太陽の神、月の女神よ……どうかお願いします。
「………お迎えはまだでしょうか」
ふと目が覚めると、俺は俺の体を見下ろしていた。
これは、魂が抜けているというのだろうか?
俺は神の国にあと一歩なのか?
見下ろす俺の顔は、真っ白で生気がない。
もう血は止まったのか?刺されたあたりのシーツは血は滲んでいない。
頑張って保持していた、ほんのり筋肉が細くなっている気がする。
『……時間の問題?』
透き通った今の手で、自分に触れようとしたけど触れない。
魂だからか気温も感じないし、なんの匂いもしない。
どうしようもなく、自分の上をフヨフヨと虫のように漂っていると、太陽が沈み、夜が訪れた。
兵士によって俺の部屋にも松明に火がつけられた。
しばらくして、また誰かが木戸を開けて俺の部屋に入ってきた。
アテムだ。
「……クァイ…加減はどうだ?」
アテムが俺の体の上に覆いかぶさるように、覗きこんでいる。
「あぁ……かわいそうに……真っ白だ……肌も冷たい」
アテムが俺の頬に手をあてた。
「………」
なんだか印象が違う。
アテムは俺のことが嫌いだったのでは??
いつもの怒った顔で睨みつけていたアイツはどこへ??
「…クァイ…目を覚ましてくれ……死ぬな……クァイ」
「っ!?」
アテムが俺の顔に、自らの顔を近づけた。
アテムの金色の髪が流れ落ちて視界を遮り、よく見えないが……クチャクチャと音がする。
キス!?
俺、キスされてる!?
しかも俺の顎を掴んで口を開けて、舌まで執拗に吸っている!?
魂だけなはずなのに…口の中がおかしい。
アテムの舌になめ回されて、吸いつかれているような……。
「……クァイ…愛している……愛してる!!」
アテムの手が布団の中に潜り込み、俺の中心を服の上から撫で始めた。
ちょっと!!ちょっと待て!
その愛してるって……もちろん親族としてだよね!?幼馴染みに対する友愛だよな!?
その手はなにか介抱の一つだよな!?
アテムに触られている、股間がムズムズとし始めた。
アテムの手が俺のペニスの形をなぞるように上下になでなでしてくる。
まるで脆くて大切なものを扱うように……。
うっ……あ……気持ちいい……
『……あっ……ふっ……うぅ』
アテムと自分を見下ろしながら股間をおさえる。
無骨な戦士の手が、服をかき分けて直接、俺の勃起し始めたペニスをそっと握る。
ちょ……待て!!やめてくれ!
ゴツゴツの親指が俺の繊細な鬼頭をなで、指で輪を作り、じゅぶじゅぶとしごく。
「…クァイ……お前が死んだら……俺もすぐに逝く。二人で神の国に行こう……だから心配するな……向こうではじめて俺たちは結ばれる」
ぐちゅ ぐちゅ
ぬちゃ ぬちゃ
アテムの手は、止まることなく俺のペニスをしごいた。
本来だったらさっさと射精していそうだが、死にかけて精液もないのか、なにも出てこない。
んーーぅーああーーー!!気持ちいいのに何もでない!!
苦しい!!気持ちいいの苦しい!!
恐ろしい熱がちんこから迫り上がってくる。
『ああ!!イきたい!!出したい!!うううー!!』
俺は自分を見下ろしながら股間の快楽に身悶えている。
幻の身体はちんこを擦れない!
アテムの手が皮をずらすように竿を容赦なく、こしゅこしゅする。
『あぁああ!!』
ちんこが何も出さずにビクビクと痙攣をしている。
長い長い射精感が僕を襲う。
うぁああ!!いっ…イってるのに出ない!!ひぃいい……イってる!!でも出ないからおさまらない!!射精感がずっと!ずっと!!
苦しい!!快感がキツイ!!
「……クァイのちんちんが震えてる……寒いか……もっと擦って温めてやる……」
アテムが残虐な顔で微笑んだ。
口元の傷が引きつっている。
やめろ!!無理!!無理!!もう擦るな!!!
しばらく快楽という地獄を味わった。
アテムが俺のペニスを擦り続け、少しだけ出た精液を手で受け止め、それを嘗めている。
まるで殺した相手の返り血をなめとるような光景だ。
恐ろしい。
「……クァイ……目を開けろ……俺を見ろ……一緒に逝くぞ…」
アテムが腰の後ろに差している短刀を抜いた。
太陽の光が反射して眩しい。
ええええ……本当にこれは幻??
アテムが俺を愛していて、心中するつもりだなんて…。
勘弁してくれ。
『本当にそうですね』
誰!?何!?
目の前に光輝いてよく見えない人が現れた。
アテムは時が止まったように静止している。
夜なのに昼のように辺りが明るい。
「……誰??」
『愛の女神です。太陽の神に申しつけられ、アテムを助けに来ました』
愛の女神…光過ぎてて顔が見えない。
「アテムを…」
俺じゃないのか。
『神の愛し子のアテムを助ける為に……仕方なく貴方の命も助けます』
「本当に!!」
仕方なくというのが引っかかるけれど、それでも良い!!俺にはまだやりたい事が沢山あるんだ!
『……あくまでアテムの為です。良いですか…これからはアテムの為に生きるのですよ……』
「ああ!ありがとうございます、女神さま!!」
まぁ、これからは、ちょっとはアテムを気遣ってやろう。
『……信用なりませんね。いいでしょう、月が満ちてかけるまでに、必ず一回愛し合わないといけない体にしておきます』
「はああああ!?」
女神が手を振ると、光の粒が俺のお尻に入っていった!!
嘘だろ!?
『ちなみに……足りなくなった血は、愛の女神のわたくしの血を注いでおきますので……すごく男性にモテますので……良かったですね』
「……よくない!!何も良くない!!嫌だ!!」
必死に光り輝く女神に近づこうとしたけれど、光が強すぎて弾かれる!!
いやだ!
俺は女性のやわらかく、まるい身体が大好きなんだ!!
好みは、ちょっとふくよかな方がいい!
このロメオ国の戦士の男どもなんて、死んでも嫌だ!!
しかもアテムなんて、一番嫌だ!!
『あなたに選択権はありません。せいぜい他の男に掘られないように頑張りなさい。うふふ……でもアテムとはしないと死にますからね……おほほほ……まぁ、ちょっと楽しみだわ……がんばって』
今、神は気まぐれだという神話の一説を思い出した。
いや、いや、もはや神の遊戯!!気まぐれが過ぎる!!
『さぁ、身体にもどって…そうでないとアテムと心中よ』
アテムの身体が静止した状態から、ピクリと動いた気がして、必死に自分の身体に飛び込んだ。
パチリと目が開いた。
「………クァイ………」
短剣を振り上げたまま、アテムが目を見開いた。
二人の間の時間が止まったように、凍り付く。
先ほどの愛の女神は居なくなったのか、再び暗くなっている。
「……ア…テム……」
メチャクチャ背中が痛いぞ!!なんで背中に傷あるのに仰向けなんだよ!まぁ…どうせ死ぬと思われていたからな。
「……そんな……もう駄目だと……」
アテムが短剣を放り投げた。金属音が響く。
「あぁ……太陽の神よ……感謝致します!!」
アテムが、手を組んで祈りを捧げ始めた。
いや、まぁ…実際に助けに来たのは愛の女神だったぞ……いや……アレは夢??
夢だったのか??
「……クァイ……俺は……お前を……愛している」
「………」
夢じゃないのかぁぁ。
やっぱりお前、俺の事好きなの!?心中しようとしちゃう程!?
なんでだ??
お前ならどんな女性も選びたい放題なのに……。
「もう…俺は遠慮しない……お前は俺のものだ……」
アテムが俺の唇にキスをした。
お断りだぁぁああああ!!!
しかし、俺は女神の呪いにより、なんだかんだアテムと閨を共にするようになった。
これは生きるために仕方なくだ!!
アテムが俺が誘う女を殺そうとするから、性欲的にも仕方ない。
俺はアテムを……そうだな、ちょっとしか好きじゃ無い。
凄い好きな人が居ないから、暫定的に一番だ。
勘違いするなよ!!
END
ともだちにシェアしよう!