史哉と拓磨が帰宅し、結月が食器を洗おうとするのを穂高は咎めた。 シャツを腕まくりした穂高が食器を洗う中、隣では結月が手渡された皿を丁寧に拭いている。 不意に手元を見たまま、穂高が微かに笑った。 ｢やったな、あいつら｣ 布巾と食器を手に、結月がきょとんと丸い目で穂高を見上げる。 ｢やった、て？なにを？｣ ｢わかるだろ。...史哉の首に跡目があった｣ ｢え、全然、気がつかなかった｣ 全く、と言いながら、穂高はにやけながら皿を洗う。 ｢...幸せになって欲しいね、史哉さんと拓磨さん｣ ふんわり、穏やかな笑顔で結月は皿を拭いた。 ｢だな。まあ、俺たちも｣ ｢うん｣ その頃、史哉と拓磨は穂高が前もって知り合いの医師に連絡し、教えられた病院で医師の前で並んで座り、固い表情を浮かべていた。 ｢おめでとうございます｣ 結月の時と同じく、史哉は妊娠初期だった。 医師の優しい笑顔に、思わず、拓磨は隣に座る、史哉の手を強く握った。 ｢お前の親に挨拶、行かないといけないな｣ 拓磨の優しい笑みに史哉は若干、俯き、視線を泳がせた。 すぐに拓磨は史哉の不安を察知したが。 ｢....とりあえず、俺んちに来るか？｣ 史哉は無言で頷いた。 拓磨はアメリカの名門大学で教授を務める父、母はジュエリーショップや雑貨、花屋などのオーナーであり、自宅でピアノの講師もしている、多彩な人だ。 兄弟は拓磨を含め、4人。 28歳になる既婚の姉、26歳で美容師の兄、18歳で大学生の妹がいる。 父は殆どアメリカで、たまに日本に戻っては来るが、少子化な今、珍しく大所帯で賑やかな家庭だ。 レンガ造りの洋風な家ながら、庭には日本庭園という、和洋折衷な一軒家の我が家に、助手席に史哉を乗せ、拓磨は車を走らせた。 ｢おかえり、拓磨。随分、帰って来なかったけど、旅行でも行ってたの？｣ 年齢よりも若い拓磨の母が5日ぶりに帰宅した拓磨に明るく声を掛ける。 ふと、拓磨の後ろに拓磨よりは背は低いが長身なスラリとした史哉が立っている事に気がついた。 ｢あら。史哉くん。久しぶりじゃない｣ 拓磨の母の朗らかな笑顔に史哉は少し照れた笑みを見せた。