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第52話
拓磨の兄の優磨は彼女とデートやらで出掛けて行き、拓磨の母の作った手料理で拓磨、拓磨の母と一緒に和やかな中、史哉はお昼を食べた。
そうして。
史哉の両親も拓磨が、史哉と付き合っていること、史哉が妊娠していること、家族も認め、喜んでいる旨を伝えた。
一見、先程の拓磨の実家と変わらない、和やかなリビングにも見える。
「まあ!嬉しい!拓磨くんに見初められるだなんて!」
母は笑顔で父もご満悦だ。史哉の兄、真哉に至っては無表情だが。
「....調子いいよね、穂高と別れたことあんなに責めた癖に」
史哉は呆れていた。
表情は乏しいが、軽蔑の眼差しで両親を見据えた。
「拓磨くんはお昼は食べたのかしら?もし食べてないのならご馳走を振る舞わないといけないわね」
「ああ。寿司でも取ったらどうだ?拓磨くんは生物は大丈夫かね?」
両親は史哉の低いが強い一言を無視し、拓磨に媚びる。
拓磨は史哉の膝にある、史哉の手を握った。
「お昼なら僕の家で僕も史哉も食べました。それより。大事な話しがあります」
「大事な話し?なにかしら」
拓磨は冷静だが、史哉の母は満面の笑顔だ。
「謝ってください」
なんのことか、と史哉の母から笑顔は消えた。史哉の父はなにかを悟ったのか微かな笑みを消し、些か険しい表情になった。
「史哉が子供のときに、史哉に行っていた仕打ちです。....思い出させてごめんな、史哉」
一度、隣に座る史哉へ謝罪した。
「子供の頃、僕にだけ、話してくれ、史哉はいつも泣いてました。どうやったら両親に可愛がって貰えるか、史哉はずっと悩みながら」
『ねえ、ママ、見て見て!学校で賞、取ったの!』
小学校低学年のまだ小さな史哉は家族の絵を描き、母に見せようとした。
一向に見てくれようとせず、見てもらいたい史哉は必死になった。
『ねえ、ママ、見てよ、家族の絵を描いたの、賞、取ったの、ねえ、見て』
『うるさい!』
付き纏う史哉を母は突き飛ばした。
結局、頑張って描いた絵は見て貰えず、自室でしばらく眺めたあと、半分に切り裂いた。
怒りはなかった、ただ、どうして見て貰えないのかわからなかった。
母の日にはカーネーション、父の日には手書きで懸命に書いた、肩叩き券の小さな束を渡した。
『はい!ママ、カーネーション!綺麗でしょ』
『今、手が離せないからテーブルにでも置いておいて』
『はい!パパ、肩叩き券!1週間ぶん!いつでも使ってね!』
『今、忙しいんだ、そこに置いていてくれ』
しぶしぶ、手渡せずテーブルに置いた。
次の日にはテーブルに放置されたままのカーネーションがあり、枯れた。
肩叩き券も不意にゴミ箱を見たら、見つけ、拾いあげ、無言で見つめた。
それでもなお、両親に可愛がられようと、史哉は負けずにプレゼントを重ねたが無駄だった。
小さな粗相をすると、怒鳴られたり、頬を叩かれることもあったが、何故か、自分がしっかりしていないから、と怒りも悲しみも沸かない。
そんな史哉を面白がり、兄の真哉は一人、お人形で遊ぶ、史哉を、
『女の出来損ない、気持ち悪い』
と、史哉の手から人形を取り上げたりもした。
『返して!返してよ!』
必死に背伸びし、取り返そうと躍起になる史哉に人形を天井に掲げ、史哉の手を交わしながら真哉は史哉を弄んだ。
読みかけの宝物の絵本や小説を隠されることもあった。
中学に入り、史哉はもう両親に期待することはなくなった。
自分がΩである以上、意味がないこと。
兄の真哉がαなだけに家系にΩが生まれて格式が下がり、煩わしい存在でしかないんだと。
「史哉がΩだから、そんなの言い訳です。お腹を痛め、愛し合って出来た子供でしょう、どうして、史哉を虐待する意味、必要があるんですか?」
「虐待だなんてそんな。史哉が勘違いしただけよ。ね?史哉」
史哉に母は笑顔を向けたが、史哉の顔は険しく、そして無言だった。
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