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第87話
「穂高様に何かしら息抜きを、と思案しまして、オセロを用意しましたが、これまた、あっという間に幼い穂高様はルールを完璧に覚えてしまい、最終的には、お怒りになってしまい...」
「....懐かしいな、有坂の計らいとも知らず、悪かったな、有坂。あまりに勝ち続けるものだから、てっきり」
「頭の回転が良かったんだね、穂高」
史哉がおちょこを拓磨から取り返し、感心な声を掛けた。
「それならば、と、グローブと軟球を用意しまして。ようやく、穂高様が楽しまれ、笑顔が見え、嬉しゅう御座いました」
「キャッチボール、ですか?」
結月が尋ねると、
「ええ。キャッチボールには勝ち負けはありませんからね。穂高様の息抜きにも相応しかったようで」
「キャッチボールか...長らくしてないな」
穂高が遠い眼差しながら、優しい笑みを浮かべる。
「今度やろーぜ、穂高」
「ああ」
拓磨の明るい声に穂高が応えた。
「他になにか聞きたい事があればなんなりと、結月様」
「え?あ、いえ...なんとなく、穂高先生のお父さんみたいですね、有坂さん、あ、すみません、穂高先生、有坂さん」
「どうして謝る?結月」
「だ、だって、穂高先生にはお父様がいらっしゃるのに...」
ああ、と穂高は苦笑した。
「父と遊んだ記憶はこれっぽっちも無いし、結月の言う通りなのかもしれないな。有坂が俺の父親代わりだ」
「私も、穂高様を我が子供のように感じるときもありましたから」
結月に笑顔が浮かんだ。
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