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何度でも
※攻め視点
「好きです」
そう伝えたとき、断られるとは欠片も思っていなかった。
同じ部活の先輩はおれにだけ甘い。
勿論部活中は先輩と後輩として節度のある距離感なのだけれど、ふとした瞬間先輩はおれに甘い。
制汗スプレー貸してくださいって言ったとき、「おー」と言いながら態々俺のところまで持ってきてくれて「これ、同じ匂いですね」って言うと少しだけ赤くなる。
怪我で学校を休んだ日も、クラスメイトに混ざってメッセージを送ってきて、翌朝「部活やって大丈夫か?」って聞いてくれる。
それに、二人きりになった帰り路、偶然あたる様に触れてしまった手の甲同士に「すみません」と謝ると、切なそうに自分の手の甲を撫でてから「別に……」なんて返していた。
だから、好きですって言えば返ってくる言葉は同じものだとどこかで信じていたのだ。
けれど返ってきた言葉は「……ごめん」という簡素なもので正直驚いてしまって何も返すことができなかった。
諦めようか。
今日は卒業式で、明日からこの人はもう学校へは来ない。
会わなければいつかこの気持ちも薄れるのかもしれない。
だけど、ふとした時に先輩のする照れたような笑顔が脳裏に浮かんでそんな事出来やしなかった。
二度目の告白は、もっと後に改めてするつもりだった。
会うために使ってしまった部活の口実にもう直接の先輩ではなくなってしまった、彼、雨宮先輩はそれでも当たり前みたいに会ってくれた。
それだけで、もう、やっぱり好き!ってなっちゃったし、顔をみて話をして、いつかもう一度なんて思っているだけでもう駄目だった。
「おれ、先輩の事好きですよ」
もう一度言った言葉は「ありがとう。だけど、ごめん……」と言われてしまう。
けれど、次の約束はやっぱりとも、気持ち悪いとも何も言われない。
どうやら男同士だから断られたんじゃないらしい。
俺は性転換するつもりは無いって言われた瞬間、何をと思った。
俺が女にでも生まれ変わらない限りあり得ないのかって意味で言った言葉が、全然違う意味で返ってきたのだ。
驚くに決まっている。
多分、雨宮さんはおれが冗談で雨宮さんの事好きだって言ってる訳じゃないって事も、彼を抱きたいって意味で好きなんだって事も知っているのかもしれない。
だから驚いた。
それから、何度か雨宮さんに告白していくうちに、ああ、彼はただ、付き合わない言い訳がしたいのかと気が付いた。
誰よりも自分から近い場所におれを置いてくれて、誰よりもおれのことを見てくれていて、酒を飲まないおれのために手料理を振舞って、おれが好奇の視線にさらされないようにどちらかの家で過ごすことが多くなった。
全部おれの為だって気が付ける位には大人になったけれど、だからこそ雨宮さんが俺だけのものだって定まらない状況が嫌だった。
海外移籍が決まった年、ようやく雨宮さんはおれの告白にイエスを返してくれた。
もう、言い訳が尽きてしまった。と言って笑う雨宮さんの事を昔と変わらず綺麗で優しい人だと思った。
◆
アジア大会の決勝戦、試合前はいつも通り雨宮さんの写真を見ていた。
高校時代からだからもはやルーティンなのかもしれない。
サッカーが好きだ。
試合中は他の事を考える瞬間は無い。
だけど、一番てっぺんをとって、それで取材に囲まれて、何か一言と言われた瞬間どっとサッカーとは別の、おれの大切な人の事を思い出した。
今のチームも移籍予定のチームも雨宮さんの事はきちんと伝えてある。
だから、いまどうしても言ってしまいたかった。
「ねえ、先輩見てる? って多分見てますよね。
雨宮先輩おれの出てる試合全部みてますもんね。」
ヒーローインタビューの時はいつでも勝利の高揚感で脳の中がアドレナリンでいっぱいになっていて、自分でも何を言っているのか半分くらい分かっていない。
だけど、これが今一番言いたい事なのは分かっている。
「おれ、雨宮さんの事、一生好きです。
ねえ、おれと結婚してください!!」
テレビのカメラに向かって叫ぶ。
返事がどっちかなんて、今度こそ聞かなくたって分かってる。
だって、あなただっておれのことちゃんと好きでしょ?
困惑気味の周りのざわめきが、大きな歓声に変わった音を聞きながら、画面の向こうで俺の事を見ているであろう先輩に向かって、笑顔を向けた。
了
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