「飲む？」 準備の良い遼太がゴソゴソとミネラルウォーターのペットボトルを持って来て俺の顔に押し付けてきた。 スクールバッグを枕にして半裸のままで脱力気味というか脱力している俺。 結構頑張ったのに結果が出ていないことで疲れている。 普通はイクだろ？恥ずかしげもなく喘いでいるんだから。 遼太がサクッと射精するなんてほぼない、ほぼないのは分かっているけど今日はイって欲しかった。 これから彼がイクまで付き合うと終わるのは何時なのだろう？ 転がったままじゃ水が飲めないから体を起こすと遼太が「帰ろうか。」と言ってきて耳を疑った。 帰る？帰ると？ あれ？もしかしてイってたのか？ 俺が気が付かなかっただけで! 思わず色々と辺りを確認したけど、遼太が射精している痕跡が無い。 いい仕事をした感じで腰に手を当てて水飲んでいるけど遼太はイってないよな。 帰るって本気かな？ とりあえずペットボトルのキャップを開けてゴクゴク水を飲んでいると、先ほど「なんか暑くなって来た!」って言って脱いだブレザーを羽織りだすし、着々と服を装着している。 「ほら、友也も服を着よう。」とか普通に急かして来て、どういうこと？ 着替えるにしても色々と体液が飛び散っているからティッシュを探していると、パチンと部屋の照明を点けられてパソコンの横にあったＢＯＸティッシュを渡されて、増々違和感が沸く。 こんなことってあったかな？ 「拭くのが遅いぞ。」とか言いながら大量にティッシュを箱から出してゴシゴシ拭いて来るから、思わず聞いてみた。 「何？今日はこれで終わりか？」 「帰るんだろ、門限は６時３０分なんだろ？」 「…まあ、そうだけど…。」 明るくなった室内の時計を見ると６時になろうとしている、今から学校を出れば間に合うのだけど、いいのかな？ 人の都合など無視してコトを推し進める貴重な肉食男子なのに、途中で止めるとは何か変だ、ありえない。 俺が服を着るの待つ遼太、帰り支度を完了してコートまで着込んで「外、真っ暗だな―」って呑気に窓の外をみている姿に違和感しか感じられない。 遼太がイカないで帰ろうとする原因は何だ？ もしかして罠？俺に服を着させるだけ着させて「やっぱ帰さない」とか言い出したりするのか？ それとも漁業組合のパンフレットにガチ切れしていて気分が乗らなかった？ 俺の態度が悪かったとか、焦り過ぎて急かしすぎたか。 条件①の「俺がイク」と同時に条件②「好き」を叫ぶを発動させれば良かったのか、イク為の条件が足りなかったのか。 後は、後は…、俺に飽きたか…。 付き合い始めて10ヶ月は経っている、元々は女好きで、多分、今も女好きで普通にモテている。 モテる遼太が好きだから全然構わないのだが、飽きられるのは辛い。 嫌な結論に達してしまって顔が曇っている俺に、遼太がネックウォーマーをズッポリと被せてき「また、来週な」と明るく言う。 来週？来週に本当に遼太は来るのだろうか？ 帰り支度が終わり、生徒会室の外に出ると校内の電気も消えていて、微かに聞こえるのは運動部が体育館から発している音だけ。 「遅いぞ!」と急かされるままに外に出ると、雪が解けていない校庭は三月に入ったのに真冬のように白く、冷たい空気の空にはオリオン座が分かりやすく表記されている。 先を行く遼太が「バスが来るぞ、早く!」と急かしてくるけど、バスなんかどうでも良い。 校門へ続く雪が踏み固められた道の上、俺の足が止まった。 30分に1本しか走らないローカルバスが校門前の道を過ぎっていくのが見えて遼太が「バスがぁっ!行っちゃったぞ!!」と大声を出している。 足を止めてムスッと不機嫌顔を晒している俺に遼太が駆け寄ってきた。 誰も居ない校庭横の道、俺は黒色のダッフルコートのポケットに手を突っ込み突っ立っている、緩く波打つ茶髪を揺らし大きくなマフラーを巻いた遼太が足が止まった俺をが心配そうに覗き込み聞いてくる。 「帰るんだろ、どっか調子でも悪いのか？」 「気分が悪い…。」 「気分？少し休むか？」 「…学校に戻りたい。」 「そんなに悪いのかっ？」 「ちがう、やり直したい。」 「何をやり直すんだ？」 「…………あ……。」 垂れた目で善良そうに聞いてくる遼太を見上げて、「ん？これが遼太が俺に仕掛けた罠か？」という考えが過ぎる。 「何をやり直すんだ？」の答えは「セックスをやり直したい。」だ、これを言わせたいのか？ 漁業組合のパンフレットはうっかり置いてただけで嫉妬させるアイテムとして置いていたワケじゃないが、アホみたいに長いキスやら愛撫やらは嫌がらせか意地悪にしか思えない、それで結局は俺だけ射精させて、自分はイってないのに「帰るぞ」なんて通常では考えられない行動をコイツはしている。 俺は俺で長時間に及んだエロすぎる流れの中でも、一度も「好き」とかクソ甘いことは一言も言っていない。 パンフレットで怒らせた謝罪を行動で示させようとしている？条件②「好き」を叫ぶ、条件③　「俺が諦める」を自発的にタブルコンボさせる為の仕掛けか？ まあ、いいや、罠でも仕掛けでもハマってやるし、飽きたなんて言わせない。 遼太が首に巻いているチャコールの大きなマフラーの両端を引っ張り、大声で叫んだ! 「セックスをやり直すんだよっ!!」 ワザとらしく驚いている顔を見せる遼太のマフラーをグイグイ引っ張りながら、怒れるままに学校へ戻ろうとした。