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ありふれた殺人 3-2
「……ダニー、俺が今あなたに対して何を思っているかわかるかい?」
ジョエルは私をマイクから引きはがしながら言った。
「別に怒っているわけじゃない。俺はあなたが好きだから」
私はジョエルによってベッドフレームに背を預けるような体勢で座らされ、ベッドの脚に後ろ手に手錠で拘束された。
下を向いたまま私が何も答えずにいると、ジョエルはわざわざマイクの身体を私の前に連れてきて、悪趣味なショーを繰り広げた。
「『ドノヴァンさん! ドノヴァンさん! クラウス医師があなたに対して何を思っているのか聞きたいんだって! 答えてあげてくださいよ!』」
首の折れたマイクの口をガクガクと動かしながらジョエルはマイクの口調を真似た。
私がジョエルに対して明確な殺意を抱いたのは、間違いなく、この瞬間だ。
「ショックで口が利けなくなってしまったのかい? それなら好都合。あなたの口を塞ぐ手間はなさそうだ」
「手間、だと……?」
「なんだ。話せるじゃないですか。では、もう一度聞きますよ。ダニー、今、俺があなたに対して何を思っているか、わかりますか?」
ジョエルはマイクの身体を抱えたまま訊いた。私が逆らえないと知りながら。私は投げやりに答えた。
「怒り。嫉妬。失望」
私の答えをジョエルは手を叩いて嗤った。
「ダニー、ダニー、ダニー。全然違う。俺の話を聞いていなかったんですね。ひとつ、怒り。俺は別に怒ってないってさっきも言ったでしょう。ふたつ、嫉妬。誰が誰に? あなたがこの男に救いを求めたから俺が殺したとでも? どうしてです? 俺たちは愛し合っているのに、よりにもよって俺がこの男に嫉妬するわけないじゃないですか。そして、失望。惜しいよ、ダニー。逆だ。真逆の感情だよ」
人形遊びに飽きたジョエルがマイクを放り出し、私の元へ跪く。困惑する私をよそに、私の頭のてっぺんにキスをすると、彼は続けた。
「希望だ」
どうしてこの状況で希望などという言葉が出てくるのか。ジョエルは私の両頬を丁寧に包み、ついばむようなキスをすると、さらに続けた。
「ダニー、俺とあなたは、今まで支配する側と支配される側の立場にいた。でも、今、このとき、俺たちは対等の関係になったんだ」
「……対等?」
私はジョエルに拘束され、身体の自由を奪われているというのに、対等だと? 口にせずとも私の意志はジョエルに伝わったようだ。
「この哀れな男を殺したのは誰だと思う? フーダニット。手をかけたのは、この俺、ジョエル・クラウスだ。異論はない。だが指示したのは? 差し向けたのは? 他ならぬあなたじゃないのかい?」
「何を言って……」
「あの時、板の隙間から、俺と目が合った。あなたの目が、俺をそうさせたんだよ、ダニエル・"ダニー"・ドノヴァン。あなたは俺の共犯者になったんだ」
私にはジョエルの言い分が何ひとつ理解できなかった。
ただひとつ言えるのは――たとえ間接的であろうと――私がマイクを殺してしまった。その点だけは、まぎれもない事実だった。
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