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第1話
小学生の頃、近所のおじさんにもらったチャーム。三角が二つ重なり、中の参画はくりぬかれている。
初めて見た時オーラのようなものがあり、すごく不思議な感じがした。
チャームには丸カンがついていて、それを財布にずっとつけていた。
高校の帰り道、帰ったらゲームのお供にと思ってお菓子を買いに向かった。
コンビニで会計を済ませ、財布をリュックにしまう様友人に頼むと「ん?」と声を上げた。
「三角のは?」
友人は財布をしまわず、俺の前に差し出す。財布についていた三角のチャームがなくなっていた。丸かんだけが取り残されている。
「は!?なんでないの!?」
慌てて周りを見渡すが落ちてはいない。
リュックの中も探るが入ってはいなかった。
「なんで……」
ずっと大事にしていたのもなのに。財布は変えてもこれだけは付け替えて大事にしていた。
仲が良かったおじさんとのつながり。不思議なオーラがあったからお守りとしてつけていた。
「つら……」
「はいはい、分かったから外でような」
涙目の俺を友人は背を押してコンビニの外に連れ出した。
気落ちし、とぼとぼと自宅へ向かう。
「ああいうのはすぐなくなるんだって」
「小学1年生のころからだぞ!今高2で10年も大事にしてたんだぞ!」
「おまえ、物持ち良いよな」
「蒼汰(そうた)はいらなくなったらすぐ捨てる派だもんな」
蒼汰は俺の肩に手を置いた。
「まあ、気晴らしにゲームしょうぜ!」
明るく言われるが気を持ち直せるわけもなかった。
「ごめん、今日はゲームする気になれないや。これはやるから食べて」
それだけ言って家へと一人で帰った。
「あーもう、何もやるき起きない!」
おじさんにねだったが、なかなかくれなかった。それをねだり続け、おじさんが引っ越すことになりその時に
「大事にしてくれるならやる。絶対に捨てるなよ」
そう念を押され、手渡された。
おじさんは少し寂しそうに笑って、喜びうなずく俺の頭を撫でてくれた。
それからおじさんには会っていない。近くに住んでいるということくらいしか知らなかったから、連絡先もしらない。公園で遊んでると見かけて、よく遊んでもらっていた。
インターホンがなったが、ベッドから起き上がる気も起きなかった。すべてがなくなってしまった気がした。
普段は気にもしなかったが、あるのとないのとでは違う。あるという安心感が大きいものだった。
すると今度はスマホが鳴った。見ると蒼汰からの電話。
「なに?」
「元気ないなー」
蒼汰は明るく言うが今はそれにすらイラっとする。
「用がないなら切るよ」
「あー!まって、今家の前にいるんだけど、居る?」
「いない、インターホンもなってない」
そういうと、インターホンが鳴った。
「今通話口からも聞こえた。いるなら開けてよ」
「なんで?」
「いいから」
蒼汰は甘えるように言う。しぶしぶ起き上がり一階に降りて玄関のドアを開けた。
「はい!君の運命の人!」
「は?」
蒼汰の声は聞こえるが、立っていたのは35歳前後の男性。
「ど、どうも」
男性は軽く頭を下げた。
「え?」
「ほら、三角のチャームのおじさん」
「まだおじさんじゃねー」
男は頭をかきながら俺を見る。
「でかくなったな」
そういって頭を撫でてきた。その撫でかたはあの頃と同じ。
気付くと涙がこぼれていた。
「優太、どうしたんだよ」
蒼汰は慌てて優太の肩を掴む。
「ごめん、なんか俺……」
それしか言えず嗚咽が上がるのをこらえ泣いた。
リビングで、遊びに来慣れた蒼汰は一人ゲームをしていた。
優太はどうにか落ち着き、鼻をすすっていた。
「落ち着いたか?」
ソファーで隣に座るおじさんが問う。
「ごめんなさい、チャームなくしちゃって」
「別にいいよ、あれは別れた男からもらったものだったんだ。引っ越し前に別れて、でも大事で捨てられなくてお前がいつかなくすだろうと思って渡したんだ。
俺の手じゃ捨てられなかったからな」
別れた男?そこが気になってその後の言葉がうまく入ってこなかった。
「え?え?」
「おじさんゲイなの」
蒼汰はゲーム画面を見たまま言った。
「そう、別れ際のいざこざで近所にゲイバレしてさ。両親は理解してくれたけど、ここにいずらくなって、家を売らなくちゃいけなくなって。親戚の蒼汰の両親がちょうど買いたいって。それで蒼汰がここに住み始めたんだ」
おじさんは言って、蒼汰を見た。
「それで、俺が優太の友達になったの」
優太は聞けば聞くほど混乱していき言葉が出なかった。
「だからお前がずっとチャームを大事にしてるって話は蒼汰から聞いてたんだ。それで、そろそろ10年になるし一度来てみるかなって。時代的にも偏見は減ってきたし。蒼汰もその家族も俺のこと受け入れてくれてるし。引いたか?」
優太は魚のように目を丸くして、首を横に振った。引くわけがない。それ以上にいろんなことに驚かされ、そこに驚いている暇もなかった。
「それで今日、蒼汰が優太を連れてくるって言うから楽しみにしてたのに。チャーム落としてへこんで来れないっていうから会いに来たんだ」
「そう、なんですか」
やっと出せた声がそれだった。
「だからまあ、チャームのことは忘れて、新しい出会いを探せよ」
おじさんは優太の頭を撫でる。
むかしから遊んでくれているとき、よくほめながら頭を撫でてくれた。それがうれしくて楽しかった。
「そういえば、おじさんはたまに男の人と一緒にいた気がする」
「あー、それが彼氏だよ」
「そうだったんだ」
公園で見かけていた。おじさんはその人に呼ばれると帰ってしまうことが多かった。
「で、なんで泣いたんだ?」
「えっと」
おじさんに聞かれ、優太は目をそらした。
「これ貰った後、おじさんいなくなっちゃったし、すごい大事なものを奪っちゃったのかな?って気がしてて、その罪悪感もあって。そんな大事なもの無くしてへこんでるときに、本人登場とかもうぱにくったというか、どう謝ろうかとか、悲しいというか」
そういうとおじさんは笑ってくしゃくしゃと優太の頭を撫でた。
「お前は名前通り優しな」
「よく言われます」
おじさんは歯を見せて笑った。
「俺の彼女にしたい」
「それは、お断りします」
優太は淡々というと、おじさんは困ったように笑った。
「冗談だよ」
「冗談でもやめてよ。俺たち付き合ってるから」
蒼汰はゲーム画面からおじさんに顔を向けた。
しかし、すぐにゲームに顔を戻す。
「え、マジなの?」
おじさんが驚いて聞くが、優太は頷いた。
「そうです」
「俺が優太を落とした。おじさんが酔って話したテクで」
蒼汰は平然と言った。
「そう、か」
おじさんは恥ずかしそうに頭をかいた。
「じゃあ、チャームがなくなったのは俺との縁の切れ目かな」
おじさんは少し寂しそうに言った。
「ちがうよ、本人が来たからチャームがなくなったんだよ」
優太は蒼汰のゲーム画面を見ながら言った。
「たぶんいろんなことがつながったんだ。俺に必要なものが。おじさんもその一つだよ、たぶん」
蒼汰はおじさんに笑っていった。
おじさんは苦笑した
「悪いが、俺はまだ26歳だからな」
「え?35歳くらいかと思ってた。というか、あったの16歳?今の俺と同じくらいだったの!?」
優太が言うとおじさんはへこみさらに肩を落とした。
「老け顔だからね。でも26歳はおじさんだよ」
蒼汰は言って「よしクリア!」と両手を上げた。
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