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重くて、甘くて、苦い

「何が、あったんだよ」 「………」 また、だ。 そらされる視線。 「最近、なんかおかしいぞお前」 熱でもあるのかと額に当てようとした手を、やんわりと拒むように、そっと握られた。 ゆっくりと指と指が絡み、手の平が重なる。 擦りあわせるような動きに軽く声を漏らすと、 …そらさま、とその薄く整った唇が小さく形作った。 「最初に申し上げたこと、覚えていらっしゃいますか?」 「……最初……?」 「俺の身体も、手も、腕も、声も、思考も…全てが貴方のためのものです」 「…っ、」 ――――『俺の身体も、手も、腕も、声も、思考も…全てが貴方のためのものです』―――― 最初だけじゃない。 それ以降も、何度も何度も聞いた台詞。 「……覚えてるに決まってるだろ」 むっとして睨む。 だからなんなんだ、と途端に不機嫌になってわかりやすい反応を見せたオレに、満足そうに瞳が細められた。 「…貴方がいなければ、この身体に意味はない」 「…どういう、…」 「もし御傍を離れるようにとお命じになられたら…胸の痛みに耐えきれず、すぐに死んでしまうでしょう」 大げさに思えるその言葉の意味を理解して、息を呑む。 「ですから、…どうか俺を捨てないでくださいね?」 半分脅しのような台詞。 そうして祈りを捧げるように、前髪をあげて無防備に晒された額に唇を触れさせてきた。 やわらかい感触に、小さく震えて身を引く。 「…捨てられるわけ、ない」 顔を逸らしてぼそりと呟くと、今にも泣き出しそうな顔で嬉しそうに微笑んだ。 ______________ そうして …約束、ですよ。と小さな子どもみたいな決まり文句を吐いた彼に、息もできなくなるほど強く抱き竦められる。 「………っ、た…」 「…さっくん……?」 聞き取れなくて、首を傾げる。 けど、そうすればより強く抱き締められた。 首筋に顔を埋められ、その黒髪が肌を撫で、…良い香りが鼻孔を擽って 「…っ、…もう、後戻りできない…」 泣いているように熱く震える声が、小さく耳元で囁いた。

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