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…なんかすごい照れ臭いけど、…嬉しい。
「そして今例に挙げたのとは全く別の…俺達の想像もできないような方法で入浴を行っている方々もいらっしゃるのです」
「…うむ」
次々と用紙にかかれていく絵や図や矢印に、頷いた。すごくわかりやすい。
確かにごせんまんもいて、それぞれ全部が違う生活をしてるなら…そうかもしれない。
学校みたいに「廊下ははしっちゃいけません」って規則で決まってるわけじゃないんだもんな。
「杉原様や宮永様にもお聞きになってみてください。そうすればお分かりいただけると思います」
「知樹と涼?」
「はい。確かそのお二方のご家族は、俺達と同じやり方で入浴していらっしゃるようでしたので」
にっこりと微笑むさっくんに、こくんと頷く。
(…まぁ、さっくんが言うなら本当なんだろう)
知樹っていうのは、正孝とは別の大人しい感じの友達だ。
「夏空様の大好きなみかんの剥き方にしても、ご家族によって異なります」
「みかんもか?!」
手で剥くだけのあのみかんの皮にも色々剥き方があったのか!
知らなかった。
…そうだったのか…と真剣に、今までの自分の思考の浅はかさを悔いた。
「そのように考えると家族や世帯の数だけ、色々な形の関係があると思いませんか?……それなのに、どうしてその方の仰ることが絶対的な常識だと考えられているのでしょう」
頬に触れた手が、肌を撫でる。
悲しそうに睫毛を伏せるさっくんに、…確かにその通りだと思う。
正孝にいつも強く言われてたから、…なんだかそれが常識なような気がしてしまっていた。
「…あまり、日下部様の言葉を信用しすぎないでください」
「……」
身体に回された腕に、そっと抱きしめられる。
…勝手に思い込みでさっくんを疑ってしまったことを反省し、しょぼんとした。
「…差し出がましいことを言ってしまい申し訳ございません。でも、その間違った思い込みのせいで、俺から夏空様が離れてしまったらと思うと…」
オレの首元に顔を埋め、震えた声を零す。
さらさらな黒髪が頬に触れて、いい匂いがした。
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