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第1話 運命の出会い

「これは……敵だ……。祖国の民を何万と殺した、最も憎むべき、敵……」  一人の美しい少年を抱きかかえ、アレスは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。  少年の背中には、二枚の無色透明の羽が生えていた。骨格を持つ鳥の翼ではなく、虫の羽のような一枚羽。  「天使」の羽だ。  トンボのように細長だが、先端が少し尖る、おとぎ話の妖精を思わせる羽。  少年のそれは他の「天使」たちに比べると、とても小さかった。  いや羽が大きかろうと小さかろうと、この少年もまた、忌まわしき種族「天使」であることには変わりない。  すなわち人類の敵である。  天使を殺しに出かけたはずのアレスは今、瀕死の天使を腕に抱いていた。  少年の髪がアレスの腕にやわらかく絡む。華奢な体のあまりの軽さ。  伝わってくる、とくとくという胸の鼓動。  アレスは歯を食いしばった。 「っ……!」  気づけば、駆け出していた。  天使を背負って。  足にまとわりつく原野の草を踏みしだき、一心に走った。   アレスはとまどった。  自分のうちに沸きあがる感情に、ひどくとまどっていた。  そして自問する。  何故自分はこれほど必死に、走っているのだろうと。  何故助けたいと思うのかと。  天使は、敵だ。  ※※※  月並みな表現ではあるが、この出会いは「運命の出会い」だった。  アレスにとってのみならず、人類と天使、二つの種族にとって。

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