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第67話 傀儡工房村、襲撃(7) 脱出

 裏口から出たアレスとレリエルは、林の中を必死に走っていた。  傀儡村の靄に紛れ、民家から民家に身を隠しながら村の門を目指し、無事に村を抜け出した。  あとは林を抜けるだけだった。  だがあたりから傀儡村の匂いや邪気が消え、城壁が目前に迫ったところで、  「わわっ!」  レリエルが転んだ。  草むらの中に横たわっていた、「何か」につまづいたのだ。 「いって……」 「大丈夫か!……て、やべっ!!」  アレスが、レリエルがつまづいた「何か」を見て焦っている。 「え?」  レリエルが視線を下ろすと、レリエルの下、太めの天使が、切り株を背もたれにして寝ていた。 「うげっ」  レリエルは慌てて身を起こし、小声で言った。 「ボラス!僕と同じ、神域周縁部警備隊の一人だ!」  ボラスはうるさそうに顔をしかめると、あくびをして伸びをした。  そして目をこすりながらレリエルを見る。  ボラスは、あっ、と口を開けた。  アレスとレリエルが身を固くして、攻撃態勢を取ろうとすると、 「レリエル!?人間たちの偵察から戻ってきたのか!?お、俺は別にサボってなんかないぞ!ただちょっと英気を養っていたっていうか……。イ、イヴァルト様に言いつけたりするなよ!!」  と、言い訳をしてきた。レリエルは戸惑う。 「え……?」 「だ、だいたいお前こそ怠け者じゃないか!何しろお前は人間どもとの戦闘時にいつまでも仮死睡眠から覚めなかったしな!天界開闢の第一段階、『神域の形成』!お前は第一段階の成就に何一つ貢献しなかった!まったく、一体いつ役に立つんだ、出来損ないの半人間!」  偉そうに説教しながらボラスは立ち上がり、尻についた枯葉や草をパンパンと払った。  そこでボラスは初めて、レリエルの後ろにいるアレスの存在に気づいた。怪訝そうな顔をした。 「ん?一緒にいるのは、見慣れない顔だな……。お、お前はまさか人間!?」  アレスが舌を出した。 「バレたか」 「待ってくれボラス、あんた僕が人間と一緒に逃げたって知らなかったのか?」 「は?なんだ!?どういうことだ!?」  その時、上空から声が振って来た。 「いたぞ!あそこだ!」  見上げると警備兵らしき天使四名が飛空し、アレスたちを見下ろしていた。  アレスは舌打ちをする。 「見つかったか」 「ボラス!レリエルとその人間を捕らえろ!」  ボラスは、はっとした顔でアレスとレリエルを見ると、一瞬の間をおいて飛びかかってきた。  レリエルはひらりとかわして、(セフィロト)攻撃をお見舞いする。 「うぐ~~~~~っ!」  アレスも(セフィロト)攻撃を追撃し、ボラスは白目をむいて倒れた。  が、上空の警備兵たちも、二人めがけて(セフィロト)攻撃を打って来た。  一名は応援を呼びに行ったようで、三名が二人に攻撃をしてくる。  ドン、ドン、とアレスとレリエルの(セフィロト)が衝撃を受け、二人は苦痛に顔を歪めた。職人天使に比べるとだいぶ強い。さらに、三対二で上空から狙われてるので、明らかにこちらが不利だった。 「こっちも飛ぶぞ!」 「分かった!」 「デポ!」  アレスの呼びかけにデポが答える。 「マカセトケ!」  デポがみるみる巨大鳩に変形した。アレスが飛び乗り、デポは羽ばたき上昇した。  空中に躍り出た二人は、共に同じ技名を叫んだ。 「「大破魂(メガ・クリファ・セフィラ)!」」  突き出された二人の両腕から、その大攻撃が次々と連打される。   「くはっ!」 「ばか……な……」  天使たちは胸を抑え、苦悶の表情を浮かべた。三人とも落下していく。 「よし……」  アレスが呟いた。  だが後方を振り仰いだレリエが上ずった声を出した。 「まずい、来た!う、嘘だろ、ミカエル様が!?」  赤髪のミカエルと警備兵たちが、猛然とこちらに向かって飛んで来るのが見えた。 「ミカエル様?まあ死の霧はすぐそこだ!さっさと脱出しよう!」  二人は死の霧に向かって直進した。  死の霧はすでに目と鼻の距離、ミカエルたちはだいぶ後ろ。  追いつかれるわけがない。  アレスは叫んだ。 「俺たちの勝ちだ!」  しかし。  耳の横をヒュン、っと何かがとてつもない速さで掠めた。 「誰の勝ちだって?」  目の前に赤い羽の天使、ミカエルがいた。  ミカエルは死の霧とアレスたちの間、背中の赤い羽をブウンと震わせながら、佇むように浮かんでいた。  まるでさっきからずっと、そこにいたかのような落ち着きで。 「は、はやっ……」  アレスはデポを急停止させ、息を飲んだ。目視すらできなかった。ありえないスピードだった。  異様に威圧感のある男だった。長く広がる派手な赤い髪。がたいが良く、きりりとした眉はいかにも喧嘩慣れしてそうな雰囲気。  見た目も派手だがそれだけではない。内側からかもし出すオーラが、他の天使達とは明らかに違っていた。  ミカエルはアレスとレリエルをジロリと睨む。 「出来損ないのレリエル。これは、どういうわけだ?なんで人間といる?イヴァルトと何があった?」  レリエルの顔が青ざめ、小刻みに震えだす。 「ミ、ミカエル様……」 「あと人間、なにもんだお前?なんで霧の結界を突破できた?……まあいいや、それは後で拷問して聞き出すわ。今はちょっと、遊んでやるよ。お前はどの程度のもんだ?」  ミカエルはすっと手を突き出した。  来る、とアレスは身構えた。一体どんな攻撃が来るのか。今までとはまったく違う相手を前にして、ぶるりと全身が武者震いした。  その時レリエルが突然、アレスの腕をがしりと掴んだ。  アレスはえっと驚き、ミカエルが何かを察した様子で物凄い怒りの形相となった。 「てめえ!さては……」  ミカエルの手から技が発せられるその刹那、レリエルは叫んだ。 「光速移動(フォトン・スライド)!」

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