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6 和樹という人
「あの、蔵田くん」
「あー、カズでいーよ」
「ん、分かった」
そう言ったきり、また席に座って黙ってしまった和樹と、何を話したら良いのか…佑は迷っていた。
元々あまり話すのは得意ではないし、普段は拓馬から話し掛けてきたり無言でも居心地が良かったりするから、初対面の人間と話す難しさなんて久しく忘れていた。
佑が1人で焦っていると、そういえば、と、和樹は机の上に置いていたレジュメを手に取る。
「この学校、2年の始めに学部合同キャンプがあるって珍しいよな。まぁ、学生同士で交流はできそうだから、編入したばかりの俺らにとっては有難いイベントだけどさ」
「あぁ…うん、俺も入学するまで知らなかった。そっか、キャンプか…」
「苦手なのか?」
「え…あっ」
本音を言えばキャンプは好きではない。
それが表情に漏れ出てしまっていたようで、不思議そうに和樹が見上げていた。
和樹たちと同じ班になってしまったのが嫌だと勘違いされてしまうのではないかと、佑は焦って言葉を紡ぐ。
「あの、えっと…別に君らと一緒が嫌とかそんなんじゃないんだ。俺、他人と泊まったりとか苦手だからさ」
拓馬と歩ももう少し話しているだろうと思い、佑も和樹の前の席に腰掛ける。
慣れていない人間と真横に隣り合わせで座るのも苦手で、普段の講義も一番端の座席を取り、その横に拓馬が座る形で何とか乗り切ることができているくらいだ。
和樹はそれには気に留めない様子で微笑んだ。
「そっか。俺も、あんまり得意じゃない。初対面の相手と3対1とか無理だったと思う。歩が同じ班で助かった」
笑うと綺麗な人なんだな、と何の気なしに佑は思う。
黙っているとクールそうで人を寄せつけなさそうな雰囲気もあるが、笑うとふっと空気が緩むようだ。
「佑、だったっけ。もしかして、枕変わると寝れない?とか?」
「…へ?」
思わぬ和樹の返しに、佑は気の抜けた声を出してしまう。
和樹も暫くぽかんとしていたが、不意に吹き出した。
「ふっ…何その返事」
「な、何だよっ!別に俺は枕変わると寝れないとかそんなんじゃねぇしっ、大体寝れなくてキャンプ嫌だとか、その理由何なの?最終日のディベートとかそっちの方が心配じゃん!」
「ごめんごめん、悪かったって。うん…でも、良かったよ」
和樹は可笑しそうに笑いながら、ふと真面目な顔に戻って微笑む。
佑はまた、その綺麗な瞳から目が離せなくなった。
どうしてだろう、和樹の瞳には人を惹きつけるような何かがあるような気がする。
それに、彼がぽつりと呟いた一言も気になった。
良かった、ってどういう事だろう、と。
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