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12 興味と不安

「ただいま」 誰も居ないワンルームの部屋に、自分の声が小さく響く。 幼い頃から挨拶だけは欠かさなかった実家での癖が抜けず、一人暮らしを始めてからも習慣として続けてしまっている。 「じゃあ俺はここで。また明日な!1限遅れんなよ?」 「あ…うん、また明日」 分かれ道で拓馬に声を掛けられるまで、長い距離を歩いてきていたことに気が付かなかった。 拓馬と歩いていたのにそこまで考え事に夢中になっていたのか…と、佑はバッグを床に降ろし溜息をつく。 そのままベッドに背をつけて座ると、膝を抱えて体育座りをした。 今日出会った2人。 今日話した限りでは、人懐っこい様子の歩と物静かな和樹。 幼馴染みであるらしい2人の雰囲気は、どことなく佑と拓馬の雰囲気と似ていた。 これまで他人と深く関わるまいと避け続けてきたが、今回は2泊3日の学科キャンプだ。 ディベートもあるため班での協力は不可欠になるし、拓馬とだけ一緒に居るなどという事も難しいだろう。 大学に慣れるまでは総論等の同じ講義を一緒に受けようという話にもなっていたし、関わりを避ける事が出来ないことは分かっている。 それに、和樹や歩に興味が芽生えてきている自分が居るのにも気付いている。 しかし、今日は油断していた。 和樹に掴まれた右肩や、振り払った時の手の甲の痛み…その手の感触がまだ残っていて、ぎゅうっと自分の身体を抱き締める。 あの時、動悸が酷くて逃げ出したいのを、身体が震えて仕方が無いのを、よく表に出さずに帰ってくることができたと思う。 他人に手を伸ばしてはいけない、触れても触れられてもいけない…その思考はどうしても変えることはできず、一歩踏み込んで他人と関わる事なんて、長く避け続けてきたために方法を忘れてしまっていた。 まだ、恐怖と不安が拭えないのだ。 こんな自分が人と深く関わる事への恐怖。 そんな事はしてはいけない、する資格なんてない。 理由は分かっている、明白だ。 しかし話せばきっととんでもない衝撃を与えるだろうし軽蔑されてしまう気がして…和樹や歩には勿論だが、拓馬にもはっきりとは明かすことはできない。 それでも何も語らなくても隣に居てくれるからこそ、拓馬と居れば大丈夫だと信頼はしている。 これから4人でうまくやっていけるのだろうか。 不安で仕方が無い心を誤魔化すように、少し早めにシャワーを浴びることにした。 こんな事は気休めにしかならないかもしれない。 しかし、流れる水が何かを溶かしてくれるのではないか、少しでも気持ちを軽くしてくれやしないかと、小さな願いを込めてみたりした。

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