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16 どっちも
スーパーで買い出しを終え、拓馬の家に集まる。
広いリビングダイニングの隣にデスクとベッドのある寝室がある1LDKの間取りの部屋は、4人集まるには丁度いい広さだった。
「なぁ拓馬」
「ん?」
「これ、全部食うのか?」
「…あいつらに聞いて?」
リビングの真ん中に置かれた少し広めの座卓の上に並ぶのは、大きな2つの鍋と机いっぱいに並んだ食材たちだった。
キッチンでは、口を尖らせた歩と佑が、それぞれ野菜を洗ったり切ったりして準備を進めている。
「だって辛いのヤダ」
「俺トマト食えねぇし」
スーパーの売り場でトマト鍋が良いと主張する歩に、トマトが苦手な佑が珍しく嫌だと言い張ったのだが、歩は辛いものが苦手だったためにどちらにも決められなくなってしまった。
「まっ!どっちも作ればいいじゃん?カズはそれで大丈夫?」
「ああ、俺もそれがいいと思うよ」
そう言う拓馬の提案で結局どちらの鍋の素も買う事にしたのだが、それぞれの鍋に合う具材を考えているうちに、かなりの量になってしまった。
食べ盛りの男子大学生4人の食事量を考えたとしても余り過ぎてしまうほどの、スーパーの袋4つにぱんぱんに詰まった食材の数々。
飲み物も含めて重たくなってしまった荷物を抱え、4人は何とか拓馬の家まで辿り着いたのだった。
「トマトは鶏肉でシメはリゾットなの!チーズは入れたいから外せないし!」
「キムチ鍋は豚肉で麺がいい。そこは譲れない」
「はぁ…まったく。2人とも意外とこうと決めたら意地っ張りなんだよなぁ。全部使うと多いから、適量にして残りは冷蔵庫に入れとこうか。また明日以降にうちで何か作りゃいいよ」
「とりあえず、準備するか」
歩と佑は無垢れたままで、それを見やる拓馬と和樹は苦笑しつつ、それぞれの準備を進めていく。
全ての食材を使い切りはしないものの、具材の種類は豊富だ。
トマト鍋には鶏肉にキャベツ、人参、玉ねぎ、しめじ、エリンギ、シメにはリゾット用のご飯とチーズ。
キムチ鍋には豚肉に白菜、にら、長ネギ、もやし、豆腐、シメには中華麺2玉。
2つ分の大鍋に作ったそれぞれが出来上がる頃には、歩と佑の機嫌も元に戻っていた。
「いただきます!わ~トマト鍋美味しそ~」
「キムチ鍋もいい感じに味が染みてるよ」
「それにしても、やっぱり多いよな」
「どっちも美味しそうだし、俺らの今の食欲だったら食べられそうじゃん?」
「いけるかなあ。俺と拓馬は味変もあるからいけるか?」
それぞれが自分の器に思い思いの具材をよそい、美味しそうに頬張り始める。
春先の桜が散り葉桜が目立つようになってきた時期だが、わいわいと季節外れの鍋会が始まった。
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