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6 昼食

会社の近くのコンビニエンスストアに着くと、真っ直ぐに弁当コーナーへと向かい何がいいだろうかと頭を悩ませる。 本当なら和食料理店の幕の内弁当などを用意したいところなのだが、社長だからといって特別な昼食は必要無いからと、会食がある日以外は大抵コンビニ弁当や近場のテイクアウトで済ませるように申し付けられている。 今日は人気商品シールのついた焼き鯖と煮物の入った和食弁当と、ほぐし鮭とそぼろの載った三色丼を選んで購入し、すぐに会社へと戻った。 社長室に戻ると、もう書類に目を通し終わったらしい社長が「おかえり」と優しく笑って出迎えて下さる。 「お待たせ致しました。2種類ありますので、お好きな方をお選び下さい」 「分かった。いつもありがとう」 ビニール袋から買ったものを取り出し机上へ並べると、社長は少し悩んだ後三色丼を手に取った。 今日は丼物の気分だったかな、と思いながら、俺は焼き鯖の和食弁当を手に取る。 「そちらで宜しいですか?」 「あぁ、ちょっと迷ったけど、今日はしっかりご飯を食べたい気分かな。脩矢はそっちでいいかな?」 「はい、美味しそうなものを2つ買ってきましたので、私はどちらでも構いません」 「そうか、ありがとう」 ふわりと微笑んだ社長は、早速箸を手に取りご飯を口へ運ぶ。 さすが大楠グループの長男、コンビニ弁当を食べる所作さえも流れるようで美しい動きをされる。 この方にお仕えしていられる事が誇らしい…そう思っていると、顔を上げた社長と目が合った。 「そんなに見つめられていると少し食べにくいんだが…君も早く食べないと冷めてしまうよ」 「あ…申し訳ありません」 「いや、気を遣わせてしまったかな、いつも言うように畏まり過ぎなくていいからね」 「はい」 基本的に執事は主人の後に食事を摂るものだと教育されてきたが、仕事の場合はその後のスケジュールに支障が出ないよう一緒に食事をするようにと社長から言いつけられている。 俺も弁当箱を開け、箸で鯖を口に運ぶ。 なるほど、人気商品と謳っているだけあって肉厚でふわふわの鯖が美味しい。 ゆっくりと舌鼓をうっていると、何やら社長が嬉しそうに此方を眺めていてはっとした。 「どうされましたか、社長」 「明日はその弁当にしてもらおうかな」 「あ…っ、あまり良くなかったでしょうか、三色丼は」 「いや、あまりにも君が美味しそうに食べるから、食べてみたくなったんだよ」 「では明日はまたこれを買って参りますね」 そんなに顔に出ていただろうか、と少し恥ずかしくなる。 穏やかに、和やかに、お昼休憩の時間が流れていく。

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