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第1話
凍える日々に訪れた小春日和。
窓から流れる風を、久しぶりに心地よいと感じた。
こんな日は外に出てみようか、なんて考えが浮かんだから、さっそく本を本まみれの部屋に置き去りにしてちょっとだけ寒い廊下に出る。
背伸びをしたら、まずどこに行こうか。
ポケットに手を突っ込んですれ違う顔見知りに愛想良く挨拶を交わす。
なんとなく、親しい友人達を探してみるが、小柄でいつもにこにこ笑っている友人も、いつも不機嫌な顔をした友人も見つからない。
つまらないな。
こんなに良い天気なのに、課題で忙しいのだろうか。
ブラリブラリ、だいぶ人気の薄れてきた校舎裏を歩いていたら、小鳥がスイッと通り過ぎる。
小さな二匹の小鳥はクルクル回ったかと思えば、時たまコツンと軽くぶつかってまた回る。
春空でじゃれ合う小鳥に癒やされる。
「仲良しさんだねー」
小さくつぶやいて横目で通り過ぎる。
つい顔が緩んでしまうけれど、誰も見ていないから、まぁいいか。
ジュースでも買って屋上に行ってみようかな、そう思った時、すぐそばの窓が開いている事に気づく。
たしかここは資料室、と言うより倉庫に近い。
頻繁に使われる資料室に入りきれなくなった古い資料がここに持ってこられるのだ。
あまり人が使っている所を見たことがないのだけど、誰かいるのだろうか。
ヒョイとカーテンの隙間から顔をのぞかせてみたら、親しい友人達がそこに居た。
いつもにこにこ笑っている友人と、いつも不機嫌な友人だ。
二人とも俺には気づいていない。
二人って言っても一人は寝ちゃっているけれど。
棚の向こう側、埃っぽいその部屋で、カーテンの隙間からこぼれた日の光を浴びて眠る小柄の友人。
ソファーに膝を抱えるように、そして頭だけはいつも不機嫌な友人に寄りかかって。
そして、そんな友人を見つめるいつも不機嫌な友人。
しかし、まいった。
いつも不機嫌な友人を、今日はそう呼べそうにない。
なんて穏やかな顔してるんだ。
いつも眉間に付けていたシワは、今日はどこに落として来たのだろう。
手に持った数枚の資料の存在なんて、きっと彼は忘れてる。
凶暴凶悪、泣く子も黙る学院の歩く凶器は、今、ただただ黙って微笑む。
きっと本人も、笑っている事に気づいていないだろうな。
しかし、眠る友人が目を覚ませば、彼はまた、いつも不機嫌な友人に戻るのだろう。
『何勝手に寄りかかってんだ』『サボってねーでテメェも調べろ』などと喧嘩腰にまくし立てるんだろうな。
そんな光景が簡単に想像出来て、声を潜め笑う。
いいんだ、それで。
それが二人らしいから。
それが俺の知ってる二人だから。
明日はまた寒くなると誰かが言ってた。
冬はまだまだ滞在中らしいよ。
だけどたまには、小さな嘘つきに騙されてみるのも、いいかもしれない。
世界なんて、忘れてみようか。
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