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3【でもお兄ちゃんも、弟のことが大好きみたいです。】

『兄ちゃんがおれのために言ってくれてるのは、わかる』 『そうか? じゃあもう意地悪されても叩いたりしない?  っていうか、そういうときは兄ちゃん呼べよ! 俺がそいつらのことちゃーんと怒ってやるからさ!』  どんと胸を叩いて頼れる兄ちゃんアピールをすると、奏は頬を染めて笑った。とても嬉しそうに。 『うん。分かった。もう、叩かない。ちゃんと兄ちゃんにお話する』  にぱっ、と弾けるような笑顔は、血の繋がりなんてなくたって愛おしかった。  俺はそんな素直な弟が可愛くてたまらなくなり、ちっこい頭を抱いてわしゃわしゃと髪を掻き混ぜた。 『そっか! 偉いぞ、奏!』 『あはは! くすぐったいよ、兄ちゃんっ』  きゃあきゃあ声を上げてはしゃぐ奏をいじり倒して、俺たちは二人で笑いながら家に帰った。 ◇◆◇ 「――――さま。  お兄さま? どうしたの、急にニヤニヤして」 「ん。あっ」  気付けば、レジーナが不思議そうに俺を見つめていた。 「昔のこと思い出してた。行儀が悪かったな、ごめん」  苦笑しつつ水のグラスを手に取って、仕切り直しに一口含む。  ふぅん、と首をひねって、レジーナはとんでもないことを言った。 「おかしなお兄さま。好きな人のこと考えてるみたいな顔をして」 「ぶっ」  飲んだばかりの水を噴き出した。 「お兄さまっ!?」 「げほっ、ごほげほ!!」 「旦那様、大丈夫ですか!?」  レジーナが驚いて飛び上がり、隅に控えていた執事がナフキンを持って駆け寄ってくる。 「ち、違、好きな人って。家族のことだよ」  ()せながら答えると、レジーナは「まあ」と口に手を当てる。 「そんな動揺することないじゃありませんの。ほんの冗談でしたのよ」 「兄さんをからかうんじゃありません!」  もらったナフキンで口を拭いながら、はあはあと肩で息をする。必死で叱る俺にレジーナは目を丸くして、それからくすくすと笑い始めた。 「ほんとうに最近のお兄さまは変だわ。まるで別人みたいね」  別人なんですよね!!  たらりと冷や汗が垂れるのを感じながら、少々強引に話を逸らす。 「お、お説教はこれくらいにして。  フレデリックさんの対応を考えないとな」 「え? ああ……あの暑苦しいでこっぱち貴族ですわね」  人様に変なあだ名をつけるんじゃありません、と注意すべきところだが、フレデリックがでこっぱちという点は全面同意なので流しておく。 「嫌ですわ。あのおでこ、お兄さまに因縁を吹っかけてきて」 「日を改めて来いって言っちゃったからな。またすぐにうちへ来るだろうし……」  そのときに俺が極悪人じゃないってことを証明しないと、大階段事件の再来だ。  うーん、と眉を寄せて思案していると、ユマが食堂にやって来た。 「ユーリ様。失礼します」 「どうした?」 「外にお客様がいらっしゃっているんですけど……」  そう言うユマは、どこか戸惑った様子だ。 「お客さん? こんな時間に?」 「それが……」  彼女が微妙な顔をしている理由は、すぐに分かった。 「やっほー、兄ちゃああああん! マイハニー!  愛しの奏が戻ってきたよ――――!!」  玄関のほうから聞こえてきた大声量だ。 『げっ』と引き攣った声を上げたのは、ほんの半日前まであいつにベタ惚れだったはずのレジーナだった。

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