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第10話

 漆黒が建てた家はお洒落なログハウスであった。  勿論、補強魔法を掛けてあるので長持ちする筈である。  害虫や危険な動物も居ない安心な島の様あるが、念のために敷地内にはバリアを張っておいた。  広いリビングに、お風呂やトイレも確り作られており、寝室のベッドも寝心地が良さそうだ。  屋根裏部屋も有り、天窓からは夜景も楽しめるだろう。  非の打ち所のない立派な家を建ててくれたものである。  お礼を言わなければと、思うのに、何故か言えないのが歯がゆいぐらいである。 「あ、そうだ。服、女物を用意しちまった」  クローゼットを開けてハッとする漆黒は舌打ちした。  ちゃんと性別を確かめるべきだったが、女性だとしても男性のΩだとしてもヒラヒラとした可愛い服を着るだろうと思って用意させてしまった。  女性と男性Ωが兼任して着れるような中性的な服を作らせたが、まさかαだとは……  流石に嫌がるよな。  更に不機嫌にさせてしまうのではと、気が滅入る漆黒。  あまり怒らせると自分が彼に何かしたとメイに誤解されそうで、それも怖い。 「別に構わない」  服を見て、割とあっさりと答える白亜。  サイズも丁度良さそうであるし、着れれば何でも良い。  やたらセクシーな下着まで用意されているのは流石に引くが…… 「そうか、良かった。他に何か要るようだったりしたらメイに言付けてくれ。消耗品も頃合いを見て補充に来るが、間に合わない様なら言付けてくれ」 「ああ、あ、あ、あぁぁ」  いたせりつくせりである、お礼を言わなければと思う白亜であったが『あ』しか出てこなかった。 「ところでマーメイは長なんだろ?」  白亜はお礼を諦めて話を変えた。 「あ? ああ、海の全てを護っている」 「え? そんなに……」  思い他、規模がデカくて驚く。きっと身分の高い位置の人魚だとは思っていたが、まさか海の全てを? 「海は大きく4つに別れていて、その一つ一つに長が居るが、その全てを束ねるのか、メイだな」 「………」  あまりの規模で想像出来ず、固まってしまう白亜。 「メイはそうそう人目に触れる事も無く、俺からしても存在は知っていても伝説上の生き物の様に思えるぐらいで、交流しはじめたのもここ数年だ。誤解される事が多くて、俺も偏屈で気難しい性格だという噂を信じてたしな。誤解され易いが、本当に優しい良い子なんだよ。だから仲良くしてやってほしい」  漆黒はそう言うと苦笑して見せる。  自分も中々海の底までは会いに行けず、交流も手紙のやり取りが多いが、そこまで物に執着するタイプでは無さそうで、千年も生きているからか、何処か儚さえ感じていた。  海の幸はふんだんに送って来るのに陸の物は欲しがらず、しいて言うなら花が良いと言うよな人なのだ。欲のも無く、ただ悠久の時間を海を護って穏やかに過すだけの人だった。  確かにメイは海の全てを取り仕切る重要な立場であり、あまり暇も無いのだろうが、だだそれだけを永遠に続けるのかと、漆黒は心配していたし、不憫に思えていた。  少し前の自分と重なってしまうのだ。  ただ産まれた時から決まっていた運命で呪われた国の王になり、自分の命をすり減らし、バリアを張って護るだけの日々がどんなに苦痛で辛いものか、漆黒は知っていた。  メイはそれを千年以上も続け、もはや苦痛さえ解らなくなってしまっているのだろう。  自分には裏柳と言う希望が居た。だが、メイには何も無い。  愛も知らず、欲しい物も無い。そんなメイが、幸せになる事なんて有るのだろうかと。  漆黒はそんな中に、現れた『ハク』は、きっとメイの希望なのだと思ったのだ。  例えメイの時間の中で、一時の気休め程度の出会だとしても、メイはハクを愛している。  そう、手紙の文面を見て思ったのだ。  でも、αなんだなぁ……  いや、性なんて関係ないか。  どっちにしろ人魚と人間、まぐわう事は難しい。 「言われなくても僕はマーメイが優しい事ぐらい知っているよ!」  白亜はキッと、漆黒を睨む。  マーメイが、偏屈で気難しいだって? どやったらそんな誤解が出来るのか。  白亜には逆に解らない。 「そうか。なら良いんだ」  フっと笑う漆黒。 「大体、そんな偉大な人物相手に愛称で呼ぶなんて不躾にも程があるんじゃない?」 「あ、ああ……」  マーメイがそう呼べと言うから呼んでいるのだが、駄目だっただろうか。  漆黒も考えるが、今更呼び方を変える方が不躾なきがする。 「態度がでかい何様なんだ!」 「一応、俺も王だから態度もデカくなるのかもな。不快にさせたのなら謝るが」 「は? 知らんな。何処の王だって言うの?」  近隣の王族以外にも海の向こうの王だって、全て知っている白亜。  漆黒を、訝しく見る。 「黒の王国だ」 「黒の?」  あの幻の国の? 魔王か。  コイツが? 「魔物を侍らせる魔王?」  コイツが、そうだと言われたらそうなのかもしれないと思う白亜だが、その悪逆非道の魔王とマーメイが仲良くしている事の方が信じられない。 「まぁ、そう思われてても仕方ねぇが、別に外を襲う気はねぇ。寧ろ国に囲って止めている。俺がバリアで護ってるから外に魔物が溢れねぇんだぜ? まぁ、信じねぇってなら信じて貰わなくて結構だがな。海だってそうだ。メイが護っているから美味い魚が取れるんだぜ」 「………」  白亜は言葉が見つけられず、ただ漆黒を、睨むしか出来ない。  自分は何も知らなかった。マーメイの事も、何も知らなかった事が寂しい。  マーメイは僕に何も教えてくれない。  僕を信用してないから?  この魔王には愛称で呼ばせるのに僕には言わないのは、僕がただの守られるだけの愛玩動物みたいなものだから?  

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