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第26話
「マーメイ!」
白亜は漆黒の手を振り払ってマーメイに駆け寄る。
陸まで上がって来たら大変な事になってしまう。
浅瀬を這ってしまった事で、既にマーメイの尻尾の鱗がボロボロになり傷ついてしまっていた。
ひどく痛々しい。
「早く海に戻って」
干からびてしまう。
「メイ! なんて事を」
青褪める漆黒もマーメイに駆け寄る。
「ハク、行ってしまうの? 私を置いて行くの?」
マーメイは必死に白亜に手を伸ばした。
その手を掴む白亜。
僕だってマーメイと離れたくない。一人にしたくないし、一人になりたくない。
「メイ、気持ちは解るが白亜にも使命が有るんだ」
漆黒とて、淡々と使命を全うするだけの孤独なマーメイに愛する人が出来た事は嬉しく、暖かく見守ってたかったが、相手が悪すぎた。
本当なら二人を引き裂くような真似はしたくないのだ。漆黒とて胸が痛い。
「マーメイ、約束する。僕は後継者を無事に育ててマーメイの所に戻ってくるよ。だから待っていて欲しい」
白亜はマーメイの手を握りしめると誓った。
「……解った。約束だよ?」
マーメイも白亜の手を強く握り返す。
「これ、私の鱗で作ったお守り。これを身に着けていて」
マーメイは、自分の鱗で作った首飾りを白亜に渡す。
「有難う。マーメイ」
「最後に私の目を見て」
マーメイに言われ、白亜はマーメイの瞳を見つめた。
すると急に意識が遠のく。
立っていられなくなった白亜をマーメイが抱きしめた。
「メイ、何をする!」
まさかそのまま連れ去るつもりなのかと、声を荒らげる漆黒。
「大丈夫。私との記憶をハクから消しただけ」
「なっ……」
何でそんな事を…
マーメイは意識を無くした白亜に優しく口づけし、離すと苦しげに咳き込む。
「私達は生きる世界が違いすぎた。一緒に居れない。だからこれでさよならする」
「メイ……」
「人間が人魚の存在を覚えていると困るからね。ハクは私と一緒にいた時が長すぎたからこうしたけど、その子は一瞬みたいなものだから大丈夫だよ。私の事を覚えていられる人なんてそうそう居ないのだから」
マーメイは視線を白亜から反らすと、漆黒に託し、海に戻って行く。
漆黒は気を失ったままの白亜を支えながら淋しげなマーメイをただ見送るしか出来なかった。
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