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そろそろ時刻は日付変更時刻を越える頃で、開け放ったカーテンの向こうにぽっかりと三日月が浮かんでいた。
「なに言っ……「橋本のやつ。おまえのことを泉って名前で呼んでたろ」
自分でもめちゃくちゃ理不尽で、意味不明なことを言ってると思う。それでも泉を目の前にすると言わずにはいられなかった。
この状況に至っても泉は抵抗もしなければ、俺を拒絶することもない。泉の髪に顔を埋めれば、思い掛けず懐かしいシャンプーの香りがした。
どうやら泉は今でも姉ちゃんやおばさんも使っているシャンプーで頭を洗っているようで、その飾らなさにホッとした。少しでも色気づいて来たなら男用のシャンプーに切り替えるだろうし、それを思うとこの分だと間違いなく恋人はいないはずだ。
「おまえのこと、泉って下の名前で呼んでいいのは俺だけだ」
「えっ、それって……」
泉の言葉を最後まで聞くことなく、俺は泉の言葉を半ば無理矢理奪った。ちゅっ。そんな音をたてて唇に軽くキスしただけなのに、泉は言葉をなくして絶句してしまう。
「なっ……「ああ、もう。うるせ」
真っ赤な顔でいっちょ前に文句を言おうとするから、そのまま唇で泉の言葉を奪った。
角度を変え、何度も何度もキスをする。
「……んっ、はっ」
決して激しいものじゃなくリップ音をたてる軽いものなのに、とろけるような泉の表情と甘い吐息がなんともエロい。
「……なんか言えよ」
少しの罪悪感に駆られてそう言ってみても、泉は何も言って来ないばかりか相変わらず抵抗もしない。
「ああもうっ。だからやだったんだ」
そう言うと泉の体を抱き起こし、俺も泉のベッドの上に座り直した。
こう見えても泉も男だ。抵抗しようと思えば、俺を突き飛ばすなり張り倒すなりすればいい。こうやって流れに流される泉に、自分の邪な想いが一方通行ではないことを知る。
真正面から見た泉は鳩が豆鉄砲を喰らったように惚 けているけど、紅潮した顔ととろけた目で俺を見上げて来て、その表情がまたたまらなくエロい。
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