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第1話

「ココハドコ、ワタシハダレ」 そうそうこのセリフ、一度言ってみたかったんだよなあ…なんて。 ところで本当に此処はどこ? 目の前に広がる青空、ひどく痛む頭、身体を起こしてみようとしたが、身体が思うように動かない… 金縛りか?? 指先を動かそうとすると少しだけ動いた。 でも思うように力が入らないので、少しばかり首を動かして見渡してみる。 左手には鬱蒼と茂る森 右手には青い湖 何とかブルーなんて名前を付けて観光名所になりそうなくらいに透き通った綺麗な湖だ もう一度聞こう 「此処はどこ」 ワタシハダレ…だかは分かる、記憶喪失ではない…多分 この場所に来た経緯は一切覚えてはいないが、今まで生きてきた18年間の記憶は、間違いなくある。 自分が横たわっている地面へと目を向けてみると、そこには緑の草と、見た事のない形をした少し奇妙で小さい花がまばらに生えていた。 もう一度辺りを見渡すが、目の届く範囲には森と湖のみ ああ、夢か。 空が青い、空気が美味しい…マイナスイオン的な何かを肌で感じる 夢にしてはやけにリアルな感覚だ。森から聞こえる鳥の囀りも、時折吹く穏やかな風も、空から差し込む太陽の光の暖かさも、全てがリアル 肌を撫でる風が気持ちいい。大自然の中眠る夢も悪くない。身体も思うように動かないことだし、もう一度眠ってしまおう。 マイナスイオン感じる自然の空気を、目一杯吸い込んでもう一度目を閉じた。次に目を開けた時はきっと自分の家で、憂鬱で気怠い1日がまた始まるのだ… ————————— 「ココハドコ、ワタシハダレ」 なーんちゃって。とりあえず精一杯の現実逃避と、自分を落ち着かせる為の寒いギャグ いや、本当に寒い 肌寒さを感じて目を覚ませば、見覚えのある景色 左手には鬱蒼と茂る森 右手には青い湖 ただ、先程青かった空はオレンジに染まっていた ブルッと身震いして身体を起こしてみると、少し動かし辛いが身体が動いた。 ゆっくりと立ち上がって辺りを見渡してみるが、眠る前に見た景色と何も変わらない 夢じゃ無かった… いや、まだ夢の中という可能性も捨てきれない!とお馴染みの頬を摘むやつをやってみると、頬に痛みが走る。 そよぐ風と鳥の囀り、眠る前にも感じたマイナスイオン的な何か…もとても夢とは思えないリアルさ 一度冷静になろうと、大きく深呼吸を1度、2度、3度 まず此処は何処なのか さすがに日本だよな?まさか突然海外はないよな?大丈夫だよな?大丈夫だよな?! ダメだ、全然冷静になれない とりあえず人を探そう。と思ったが日が暮れ始めた今、森に入るのは少し憚られる…どんよりと薄暗い森の奥には、とてもじゃないけど入る勇気はない そうなると目につくのはどこ迄も青い湖 湖へと足を向ければ、草地だった地面が砂利道へと変わった まるで海の波のように打ち上げる水は、やはり見たこともない程、透明度が高い 恐る恐る湖を覗き込んでみると、よく見知った、それでいて違和感を思わせる顔が水面に映った。 黒い髪に、いつも通り眠たそうな目、チャームポイントと言われる長い下睫毛、美人だった母によく似ていると言われるが、生まれてこの方モテ期は来ていない。よく見知った自分の顔 しかし、揺れる水面を覗き込む瞳の色は見覚えのない緑色だった 光の反射?屈折?湖が青すぎて? 頭の中に次々と疑問が湧くが、湖の他に確かめる術はない。 そう、スマホがない。財布もない 改めて自分自身を確認すると、黒い革靴にグレーのスラックス、白いワイシャツ。日本の成人男性がよく着るお馴染みの仕事着、サラリーマンの制服スーツ 全てのポケットを確認したが何も入っていなかった いや、もう訳わからん。どうなってるんだ。どうするんだ。と頭を抱えていると、目の前の湖の水面の一部が不自然に膨らみ上がり、丸い球体になったかと思うと フヨフヨと浮き上がった球体はべちゃり、と地面の上に降り立った。 突然の事で呆然とする俺の前でその球体は、まるで意思を持つかのようにプヨプヨと動く。 次の瞬間、球体はその丸い身体?の一部から水鉄砲の様に勢いよく水を飛ばした、俺の足下へ向けて。 靴の少し前に被弾したその水は、小さな水飛沫をあげて少しばかり革靴へと降り注ぎ、その水飛沫を浴びた革靴の一部から煙が上がる。シュワァという嫌な効果音付きだ え?と思った次の瞬間には球体からまた水鉄砲が発射されていて、反射的に避けようと後ろに下がったが足が絡まり尻餅をついた。 ジンジンと痛むお尻に、更に水を浴びたことによって煙をあげる革靴 えっ やばいやばい! 何か見たことあるよ、こういうシーン!ドロドロになるやつ!俺知ってる! 急いで革靴を脱ぎ、煙が上がってない部分を握り込みそのまま青い球体目掛けて力一杯投げつけてみる 我ながらナイスコントロール! 投げつけた革靴が球体に直撃し、バチン、と音がして球体は弾け飛び、周囲に水が散り煙が上がる その光景を呆然と眺める他に俺に出来ることは無かった

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