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第1話
愛情が狂気にもなることを、二人はまだ知らない。
先生と生徒という関係が恋人に変わったのは、高校三年生の桜咲く春のこと。
卒業式が終わり、今まで言えなかった想いが、涙と共に溢れ落ちていく。
顔を俯かせ声を震わせる俺に、「君らしくないね。」と先生は笑った。
あれから二年の月日が経ち、俺たちは同棲をしている。
「一緒に住めば楽なのにな。」という独り言にも似た誘いを喜んで受けたのだ。
二人でやれば何でも楽しい、と思えるほど毎日が幸せだった。
物足りないと思うようになったのは、更に一年の月日が経つ頃だった。
胸の内に収まり切らなくなった感情が、思考を歪ませる。
もっと、もっと彼を所有したい。
貴方は俺のモノでしょう?
日曜の午後、隣で気持ち良さそうに眠る彼に、食べてしまいたいという想いが芽生えた。
その時は自分でも驚いて苦笑いを浮かべたが、日に日に欲が大きくなっていくのが分かる。
――――少しだけ、少しだけ、少しだけ。
理性が飛んだ俺は、いつの間にか彼の首筋に噛み付いていた。
それはまるで獣のように。
「い..ったい..」と泣く声にハッとして、 慌てて謝り距離を取る。
自分の中で確実に何かが壊れていくのを感じたが、もう止めることは出来なかった。
この衝動が束縛や依存から生まれてることに気付いたのは、彼が生徒と話しているのを見掛けたときだった。
自分の一部にしてしまえば、他の誰のモノになる心配はないと思ったのだ。
貴方を食べたいのだと話したのは、その晩のこと。
彼は、「どうした?」と不思議そうに首を傾げた。
黙り込んだまま俯く俺を見て、彼は意図を察したようだった。
そして、「カニバリズムか。悪くないな。」と真っ直ぐ此方を見て笑った。
ベッドに押し倒し、そのままゆっくり首を絞めると、苦しそうに顔を歪ませる姿を見て、怖くなり手を離した。
そんな俺に彼は「君の一部になれたら幸せなんだけどな。」と頭を撫でた。
その言葉を聞いて微笑み、今度は躊躇うことなく力を込めた。
ーーー愛しい貴方を頂きます。
それから俺は、余すことなく彼を食べた。
仄かに甘く、美味しすぎて涙が出る。
これでもう、何も心配することはない。
先生、愛しているよ。
その後どうなったのかは、二人だけの秘密。
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