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第3話
あれから2週間が経ち、少し暴力が落ち着いたという話を聞いた。
腕の骨折以外は傷もだいぶ良くなったように思う。
もうあそこまで酷くなることはないだろう、と俺は完全に油断していたのだ。
そして今日、珍しく残業になって逢いに行けそうにはないと連絡してから、数時間後に彼から電話が掛かってきた。
「たす、け..て..」
「え、どうしたんですか!?」
問い掛けに返事はなく、代わりにスマホが床に落ちる音がした。
聞いたことのない苦しげな彼の声に、ジャケットも羽織らずに慌てて会社を飛び出した。
暫くして彼の家に着き、何度かインターホンを鳴らしたけれど誰か出てくる気配はない。
此処には居ないのかと思いながらもドアノブを引くと、鍵が掛かっていなかった。
恐る恐るドアを開け中に入ると遠くで彼の声が聞こえた。
「紫苑さん..!」
「ふ、ぅ..あ..」
「しっかりしてください!」
「は、ぁ..は..」
血溜まりの中に横たわる彼に駆け寄り抱き起こすと、腹部にナイフが突き刺さっていた。
顔にも真新しい痣や鼻血の跡があることから、殴られていたのが一目で分かる。
呼び掛けても弱々しい呻き声を漏らすだけで返事はない。
急いで救急車を呼び、数分後に来た救急隊員に病院へ運ばれていく姿を俺は呆然と見ていることしか出来なかった。
なんとか一命を取りとめたものの、手術後に感染症を引き起こしてしまった彼は高熱に魘されながら、もう1週間以上眠り続けている。
何もしてあげられない悔しさから涙が溢れ落ち、彼の頬を濡らす。
それに反応したのか、不意に瞼がピクリと動いた。
「んぅ..」
「大丈夫ですか?分かります?」
「..っけい、ご..くん..」
「はい。良かった..」
目を覚ました彼は、安堵する俺を見て複雑そうな笑みを浮かべた。
まだあまり顔色は良くないように思う。
「体調とか傷の具合はどうですか?まだ痛みます..?」
「腰、から..下の..感覚が..なく、て..」
「えっ。い、医者呼んできます..!」
「ごめ、ん..ね..」
ナースコールの存在は既に頭になく、俺は慌てて部屋を飛び出して担当医を呼びに行った。
事情を聞いて駆け付けてくれた医者はすぐに彼へいくつか質問をして検査を始めた。
そして暫くして検査が終わり、感染症が原因で下半身が麻痺してしまったのだろうという説明を受けた。
「大丈夫。大丈夫ですよ。」
「..うん。」
「きっと良くなりますから。」
「頑張る、ね。」
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