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第3話
この日を境にボロボロになった僕を心配した棗は大学が終わると毎日、家を訪れてくるようになった。
一番に想われてないことを知りながら、此処へ来るのは辛いはずなのに。
嫌いになってくれ、そう思ってしまうのは卑怯だろうか。
「がは..っげほ..!」
「..頼む、病院に行ってくれ..」
「はぁ..は..っだ、い..じょ..ぶ..だか、ら..」
「でも..っこのままじゃ..!」
伸びては巻き付いて離れない蔓は、既に顔の辺りにまで侵蝕してきていた。
せっかく棗が作ってくれた食事も、血と共に吐き出してしまう。
日に日に痩せ衰えていくも、それでも何度も病院に行こうという訴えを拒否し続けている。
行ったところでどうしようもないというのもあったけれど、これ以上もう彼を想うことも、棗を傷付けることも堪えられなかったのだ。
「..っゔ、あ..」
「りん、たろ..?」
「..ッぐ..」
「おい!凛太朗!しっかりしろ..!」
はらりと花弁が散るように涙が溢れた刹那、急に酷い頭痛に見舞われた。
上手く動かない身体でのたうち回る僕の名前を呼ぶのは棗なのに、彼に呼ばれているような錯覚に陥る。
此処が何処なのかも、分からなくなってしまいそうだ。
暫くして痛みが引いた頃、右目に僅かな重みを感じ、ついに蕾がなってしまったのだと気付く。
「..ぁ、ぁ..」
撫でるように僕の頬に震える手を添えながら、棗は言葉に満たない声を漏らす。
それは死を察したからなのか、単なる見た目に対する恐怖なのか、あるいはそのどちらもか。
なんとか左目で捉えた姿は、今にも泣き出してしまいそうだった。
「..僕..の、こと..な、んて..早く..忘れ、て..幸せ、に..なっ、て..」
「嫌、だ..ッやだ..!死ぬな..っ」
「..おね、が..い..」
「そんなの、できな..ッ..愛してる..愛してるんだ..っ」
じわりと蕾が膨らんでいくのを感じながら、最期に聞いて欲しいことを、吐息のように弱く掠れてしまった声で必死に紡ぐ。
子供のように駄々をこねる棗が、とうとう涙を溢し始めた。
不意に重ねられた唇に希望がないことを互いに知りながら、その温かさに堕ちていく。
次第に薄れゆく意識の中、幾度も愛を叫ぶ棗の声を聞いた。
「逝くな..っ凛太朗..!」
「あり、が..と..う..なつ、め..」
ーーー愛していたよ。
棗の腕の中で彼に抱かれる夢を見ながら、そっと花を咲かせた。
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