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1. 拓也とパン屋の元カレ、そして今カレ (今カレside)
最初の反応から変だった。
「拓也がたまに買って来てくれるパン屋って、この辺じゃない? 俺も行ってみたい」
「……うん」
古い物件だったけど、手書きの看板やディスプレイが凝ってて、俺も一目でそのパン屋を気に入った。
「いらっしゃいませ。……あ」
俺たちと同年代の男性のパン屋さんは、微妙な反応。
振り返ると奴はバツの悪そうな顔。
パン屋を出た後、拓也は無言だ。カチンと来て言った。
「元カレの店で今カレにお土産買う男ってどうよ」
「味にうるさいお前を喜ばせるパン屋を他に知らなかった」
「だからって」
「アイツとは円満に別れて今は何もない。何かあったら連れて行かない」
拓也の目に嘘はない。
家に帰ってパンをレジ袋から出すと1個多い。
メロンパンの皮の破れたのが、クッキーみたく詰めてある。
「アイツに言ったことあるんだ。今カレはメロンパンの皮だけ食べるのが夢だって」
子どもじみた嫉妬が情けなくて俯いたら、拓也は優しい顔でメロンパンの皮を摘まみ、
「あーん」してくれた。
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