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3.寮に帰ろう
夢野と少し仲良くなれたように感じたが、それでも同級生以上、友達未満と言う関係なのだろう。
夢野は俺と違ってあちこちから声をかけられ、結局夢野と話せたのは初対面のその時だけだった。
入学式、クラスメートの簡単な自己紹介、明日からの授業の事や学則など諸々の説明が担任教師からあって、今日は終わった。
学校が終われば部活見学などを希望しない限り後は寮に帰るだけである。
この学園は全寮制で、生徒達は二人部屋を与えられる。
俺は教室に居ても迷惑になるだけだろうから早々に寮に行き、荷物を整理していたらルームメートだろう生徒が帰ってきた。
「……今日から同じ部屋みたい。よろしく」
「………え? あ、あぁその、よ、よろしく……」
ルームメートからはドアを開けた途端ギョッとしたように凝視され、俺が声をかけると我に返って顔をそらされ歯切れの悪い返事が返ってきた。
そして荷物を置くと直ぐに部屋を出て行った。
予想はしていた反応だがやっぱり傷つく。
しかしこれからプライベートな時間を共に過ごす仲になるのだ。
少しずつコミュニケーションを重ねれば普通に話せる仲ぐらいにはなれるかもしれない。
そう自分を励ましていたが、そんな希望は儚くも消え去った。
「……どう言う事ですか?」
「だからな、お前は一人部屋がもらえるんだって。良かっただろ? 一人の方がのびのびできるしな」
ノック後に入ってきた担任教師に突然告げられた一人部屋への移動。
ちなみにこの人物もゲームで出てきたキャラクターだ。
確か名前は帽子野マット。
金髪に近い茶髪は短く、タレ目で優しげな笑顔がよく似合う。
イケメンで優しくて頼りになる、しかし個性的な生徒達に振り回されて損な役回りがきやすい苦労キャラ。
「まぁ色々決まりがあるんだよ。持ってやるから荷物まとめてくれるか? せっかく整理してた所で悪いな」
「……はい」
このタイミングで部屋の移動と言う事は先程のルームメートが苦情を訴えたのだろうか。
被害妄想かもしれないがあながち間違っていないように思えて、沈む気持ちのまま出していた荷物をバッグに戻す。
重いボストンバッグを帽子野が持ってくれて明るい口調で話しかけてくれるが、気分が晴れることは無かった。
案内された部屋は角部屋で、先程の二人部屋と同じ広さだった。
荷物を運んでくれた事に礼をして、頭をあげたらじっと先生から見つめられて首をかしげる。
あまり人と目が合わないから、こういう時にどうすれば良いのか分からない。
「……まぁあれだ、何か困った事があればいつでも俺を頼れよ? 別に困った事がなくても来ていいからな。待ってるよ」
そう言いながら頭を撫でられて、不意の優しさに泣きそうになる。
少なくともこの人は味方でいてくれるようだ。
それに夢野と言う会話のできるクラスメートも出来た。
初日にしては上々じゃないか。
沈んでいた気持ちを振り払うように顔をあげ、「ありがとうございます」と再度礼を言う。
すると先生は頭を撫でていた手で髪をグチャグチャにかき混ぜて笑った。
「無理すんなよ?」
去っていく背中を見送って、改めて荷物を整理する。
先生の言う通り、一人部屋のほうが気楽でいいじゃないか。
これだけ周りから嫌われているのだ、無理してルームメートと関わってもお互いストレスが溜まるだけだろう。
これは幸運だったと思うべきなのだ。
そう言い聞かせて売店で買っていた調理パンを食べ、明日はもっといい日になる事を願いながらシャワーを浴びた。
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