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42.教えて主人公
試験はそれなりに手応えがあって、おそらく悪くない結果になりそうだと思う。
試験間近になってグダグダになってしまったが、日頃の勉強が功を奏してくれたようだ。
まぁ、前世の記憶も役に立っているのだけれど。
前世でも割と勉強をしていたようで、断片的な記憶が問題を解いてくれる事もあった。
ちょっとズルい気もするが、別に俺が望んでそうなったわけでは無いので許して欲しい。
さて、試験が終わった。終わってしまった。
そこで最大の問題が発生してしまう。
明日から昼ごはんどこで食べよう?
階段の踊り場はまだ使えない。改装工事が終わっていないからだ。
ならばお誘いいただいた図書室横の準備室があるが、それこそ行けるはずがない。あんな事があった後でどんな顔して行けばいいんだ。
あんな事、を思い出して顔に熱が集まる。聴き違いで無ければ、俺は兎月会長から恋愛感情を持っていると言われた。
本当に聴き違いだったのでは無いかと、もしくは夢でも見ていたんじゃないかと思うほど、未だに信じられない気持ちが大きい。
しかし、エメラルドグリーンの射抜く程に鋭い眼差しは到底夢だとは思えなくて、強制的に現実を突きつけられる。
まったく、そんな所も兎月会長らしいなと苦笑をこぼした。
なぜ兎月会長が俺にあんな事を言ったのかなんて分からないし、どこまで本気かも分からない。
あの人があんな質の悪い冗談を言うとは思えないが、俺に恋愛感情を持つと言う事があまりにも非現実的で、素直に言葉通りに受け取れないのだ。
理解出来ない、答えも出せない、こんな状態のまま兎月会長に会う事は出来ない。
そうなるといよいよ居場所が無くなってしまって、いっそぼっち飯の代名詞、便所飯を……と考えるがそれならもう昼ごはん食べないで良いかなと思い直す。
「はぁ……」
何処にも居場所が無いことを突きつけられたようで気が滅入る。
もう何も考えたくないな、なんて現実逃避をしていた俺の背中に衝撃が走る。
「ぉわっ……! なん……!」
痛くはないが驚きで固まった俺を建物の陰に連れて行く謎の人物。
なんかデジャヴを感じるなと思っていたら、後ろを振り向くとそこにはやはり想像していた人物が居た。
何かから必死で逃げてきたように肩で息をしながら強い眼差しで俺を見てきて、これはただ事では無いと俺も目を丸くする。
「どうしたのアリス!? そんなに慌てて……」
「うんちょっと猫野を犠牲に……いやそれよりルイやっぱり何かあったでしょ?」
「猫野を犠牲?」
「いやそこはもう気にしなくて良いから……ねえルイ、最近ずっと元気ないよ? もうずっと気になって思わず走って来ちゃったよ。何があったの……僕にも話せないような事?」
「アリス……」
アリスが俺を心配してくれている、その事実に驚きと嬉しさがこみ上げた。
だってほとんど会話なんてしていないし、夢野はいつもたくさんの友人に囲まれているのに、そんな中で俺なんかを気にかけてくれていたのだ。
そして、息を切らせてまで俺を追いかけてきてくれた。
「話したくないなら……いややっぱりとにかく何か困ってるなら頼ってよ! 友達でしょ?」
友達、と言われて気持ちが急上昇するのが分かる。
相変わらず単純だと思うけれど、夢野の口から友達だと言ってもらえた事が嬉しかった。
何より、自分の居場所が無いとどん底に沈んでいたタイミングでその言葉だ。
「あ、ありがとアリス……!」
嬉しいのと感動したのと、夢野の優しさが胸を締め付けたフルコンボで、今きっと俺は泣き笑いみたいな変な顔になっているだろう。
そんな俺を夢野は優しく抱きしめてくれて、その温もりに涙腺が崩壊しそうになるのを必死に我慢した。
何でこんなに優しいのだろう。
俺なんかにまで優しくて、可愛くて、気配りが出来て、きっと夢野はみんなから好かれているんだろうな。
そこまで考えて、ふと思う。
夢野アリスはBLゲームの主人公だ。
いや、ゲームの主人公である事なんて関係ない。これほど完璧な人物なんだから、俺なんかとは比べ物にならないぐらい色んなメインキャラクターと接触があることだろう。
なんせメインキャラクターでは無い人たちにも囲まれているぐらいだ。
迫られて口説かれて抱きしめられてそれから……なんて事が日常茶飯事なんじゃないだろうか。
そんな中でも夢野は何事もないように日常を過ごしている。クラスメートに囲まれて笑ったり喧嘩したり、時に追いかけっこみたいに遊びながら青春を謳歌している(ように見える)。
これは、相談するしかない。
俺の悩みなんて夢野からしたら笑えるような事かもしれないが、きっと真剣に聞いてくれると思う。
「ねぇアリス、今から時間あるかな?」
「え……? も、もちろんあるよ! ルイの為の時間なら無限にあるよ!」
こんな事相談して良いのか分からないけれど、夢野にしか出来ない話でもある。
「じゃあその……迷惑じゃなかったらアリスの部屋行ってもいい? それか俺の部屋でも良いけど」
「もちろん良いよ! 僕のルームメイトは部活で遅いし僕の部屋で良ければ来て!」
言うなり俺の手をガッシリ掴んで急かすように寮に入っていく。
ちょっと驚いたが、部屋に行く事を嫌がる素振りはないので安堵した。
いくら夢野が優しいからって、その優しさに甘えすぎて嫌われたらどうしようと不安もあったからだ。
しかし、嬉しそうに手を引く夢野に不安は払拭され、初めての友人のルーム訪問に少しだけ胸を弾ませた。
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