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44.墓穴を掘る

   帽子野先生の私室を借りて、夢野に相談する為の話を切り出した。  夢野からは驚いた声を出されたが、いきなり好きな人がいるのかなんて聞かれたら驚くのも無理は無い。  先生から自分の好きな人は気にならないかと言われたが、だいたい察しはついている。  きっと夢野が気になるのだろう。俺達を部屋に呼んだのも親切心だけじゃなくて夢野と話したいって下心もあるのかもしれない。もしくは俺と夢野を二人きりにしたくない独占欲かな。  だが教師と生徒と言う関係がある以上、あまりおおっぴらに恋愛するのは難しい。  それでも陰ながら手助けして信頼関係を築き、少しずつ距離を詰めていく二人……とかだった気がする。  しかしそれはあくまで夢野アリスが先生を選んだ場合だ。  だから頑張れ先生、ライバルはきっと多いよ。 「あー……えーっと、僕の好きな人が気になるの?」 「うん、いきなり不躾にごめん。アリスは気になる人とかいるのかなって思ってさ」  夢野が気になる人は先生も含め山程いるだろう。だから後は夢野の気持ち次第って事だ。 「まぁ、気になる子は居るよ。ずっとその子の事を考えちゃうぐらい気になる……と言うより好きすぎてその子の事しか考えられないって言う方が正しいかな」 「……そ、そうなんだっ……!」  居るんだ! しかも物凄く好きらしい。  でも“その子”と表現するって事は先生ではない?  年下か同年代の人のように聞こえるが、やはりここは猫野だろうか。  だが、あれだけスポーツマンらしく体が大きな猫野を“あの子”なんて表現するだろうか。  と、考えて、思い出す。  そう言えば夢野アリスが攻めになるルートもあった。  いやでもすごーくマイナーだと姉は言っていたし、こんなに可愛くて小柄な夢野が攻め役になるなんて想像出来ない。  そりゃ俺よりは少し大きいかもしれないが、どう考えても愛される側だろう。 「ルイ?」 「あっ! ごめんぼーっとしてた……」 「もぉ、あんまりぼーっとしてると知らない間に唇奪っちゃうよ?」  そう言って綺麗な笑顔で俺の唇をプニッと人差し指で触れる夢野。  前言撤回、この子攻めでもいけるかもしれない。  いやこの考えはもう忘れよう。可愛いままの癒やしの夢野でいて。 「じ、じゃあ……あの、す、好きな人が居るのは分かったけど……」 「うん、なぁにルイ」  夢野は嬉しそうな笑顔で返事をする。指を絡めるように握ってくるのは少しくすぐったい。 「……好きな人、じゃない人から迫られたら……どうする?」 「………」 「あっ、話したくなかったら無理に話さなくていいから!」  夢野の嬉しそうな笑顔が、引きつった。  やはり思い当たる事があるのだろう。もしかしたらあまり思い出したくない事だったのかもしれないと思い、慌てて言葉を付け足す。  しかし、返ってきた言葉は予想外の物だった。 「……もう少し具体的に教えて? どんな事をされた……と仮定してるの?」 「え!?」  言われて、顔が赤くなるのが分かる。  いや、夢野には仮定の話をしているだが、それでも必然的に自分の事を思い出さなければならない。  まずい、思い出したくないのは俺のほうだった。  

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