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54.この先輩は猫野が好きらしい

   しかし先輩が授業に出ていないなんて予想外……いや先輩らしいか。  ただでさえサボり気味なのに見世物のような授業に先輩が出るはずが無いだろう。 「そんでルミちゃんは何食べたい?」 「チエ……アリスもだけどさ、そのルミちゃんって何?」 「だってルイって呼んだらバレちゃうでしょ?」 「……確かに」  納得はしたが恥ずかしい。  しかし二人のそばを歩くには女の子になり切らなければならない。我ながら難儀だな。 「猫野!」  不意に、背後から猫野が声をかけられ三人で振り向いた。 「先輩ちーっす」  猫野程ではないが背の高い生徒が手を振りながら近づいてきて、猫野の様子からどうやら部活の親しい先輩らしい。 「どうかしたんすか先輩」 「いやまぁ姿が見えたから声かけただけだけど……」  と言いながらまたもやチラチラと見られて、やはりこの姿おかしいのかと居心地の悪さを感じていたら夢野が前に出て視線から守ってくれる。  どこまでもイケメンだ。 「あのさ……その子は?」 「ダチのアリスっす」 「いやそっちじゃなくて女の子の方。もしかして猫野の彼女か?」 「………そうっす!」 「いや違うでしょ?」  ありがとう夢野、俺の代わりに弁明してくれて。  そしてこの先輩から見て俺は一応女子として誤魔化せている事に安堵した。  だがこんな女装男子を彼女と間違えられる猫野には同情する。ごめん猫野。 「そっか、違うのか……」  どこか嬉しそうに言った猫野の先輩にピンときた。この人、猫野が好きなのか!  なるほどなるほど、流石BLゲームの世界だ。  しかし安心してください。俺と猫野は友人以外の何の関係もありませんよと思いを込めて微笑めば、猫野の先輩は更に嬉しそうに顔を赤らめた。 「あのっ、キミ名前は?」 「ルミちゃんです。すみませんこの子恥ずかしがりやなので」  俺の代わりにまた夢野が答えてくれる。俺が答えたら声で男だとバレるかもしれないからね。 「ルミちゃん……名字は?」 「えー……エリザベスっす」  エリザベス!? なぜだ猫野!? 「そっか、エリザベス・ルミちゃんか……可愛い名前だな!」  本気かこの人!?  猫野もなぜエリザベスにした!? 他に無かったのか!  夢野も呆れた顔をしている。そりゃそうだ。 「なぁルミちゃん、見学終わったなら俺と──」 「すんません今から俺達と予定あるんで」 「あ、ちょっ、せめて連絡先──」 「そんじゃお疲れっす先輩!」 「おい猫野っ!」  引き止めようとする先輩から強引に去ろうとするから、せめてもの礼儀として振り返りペコリとお辞儀をしたら、追ってこようとしていた先輩の足が止まった。  すぐに猫野に肩を引かれたから先輩の顔は少ししか見えなかったが、顔を真っ赤にしていたように見えたのは気のせいだろうか。 「さぁて気を取り直して……何食べる?」  やれやれと言うように笑う猫野が俺に問う。  もう少し先輩は敬わないと駄目だぞ、と思うが先輩の想いを知っていて期待に応えられないから諦めてもらえるようわざとおざなりな態度をしているのかもしれないから、俺からは何も言えない。  モテる人は大変だな。 「じゃあ、食堂行く?」 「食堂で良いの? せっかく休みなんだから外で食べても良いんだよ?」  俺が提案したら、夢野からさらに尋ねられる。  この格好で外に出ろと? 「食堂あまり行ったこと無いから二人と行ってみたいなって思って……」  嘘では無い。女装のまま学園の外に出たくないのが一番の本音だが、二人と食堂に行きたいのも本音だ。 「おーけーっ!! 最高の思い出にしよう!」 「食堂行く度に俺の事思い出せるようにしてやるからな!」 「猫野はともかくいつも僕と行きたくなるぐらい楽しませてあげる!」 「ひでぇアリスちゃん!」  ホントに仲が良いなこの二人は、と微笑ましく眺めながら俺達は食堂へと足を運んだ。  

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