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64.信者

   流れ出るコーラを置き去りにして連れて行かれた場所は、体育館倉庫だった。  部活の朝練が始まって運動部達が大きな声で掛け声を上げているから、多少騒いでも気付かれにくい場所なのだろう。 「あの方に君達は相応しくない」  入って早々、一人が言った。  短い言葉だったが、何を言いたいかは分かる。  人数は五人、古い倉庫は窓が錆びてて開きそうにないから、扉からしか出られない。  面倒くさいなぁ、としか感想は出てこない。  ルイは僕を囲む彼らの事を僕のファンだと思っているようだが大きな間違いだ。  こいつらが『あの方』と呼ぶのは、ルイの事だろうから。 「昨日一緒に居た子は誰だ?」 「知り合いの子だけど」 「名前は?」 「個人情報なんで教えられませーん」 「……あの方なんだろう?」 「個人情報なんで!」  やはりあの程度の変装ではルイの魅力全てを隠しきれなかったらしい。  しかし時間かせぎにはなったから共に学園を回ることが出来たのだろう。今更ルイだと気付いたところでもう遅い。 「あの方はあの方のままで美しく完成されているのに女装させるなんて侮辱も良い所です」  別の男が言った。  静かだが、確かに怒りを含んだ声に僕は苦笑いを浮かべた。  ルイに怒られるならまだしもお前らに怒られる謂れは無いはずなのだが。 「君達はルイの何なの?」 「あの方の名前を気安く呼ぶなっ!」 「そこも怒りポイントなんだ」  おそらく彼らは親衛隊なんて呼ばれる団体なのだろうが、やはり少し狂気じみていると思う。  ファンなんてかわいいモノじゃない、これは信者だ。 「あんたらがあの子をどう思おうが勝手だけどさ、僕らとあの子は友達なんだからあんたらにどうこう言われる筋合いは無いんだけど」 「それが間違いだと言っているんだ」 「は?」 「あの方に他の物は必要ない」 「はぁ?」  何を言っているんだろうこいつは……と他の男どもを見たが当たり前のように頷いていた。  え、何? 意味が分かってないのは僕だけ? 「……どう言う意味?」  とりあえず説明を、あまり意味を分かりたくない気がするが、話が進まないので仕方なく説明を求める。 「あの方は女神なんだ」  うん知ってる。 「つまり、ただの人間なんてあの方にとっては有象無象なのだよ。あの方はあの方だけでいる事で神話のように美しくなる。他の物なんて全てあの方の美しさの前では邪魔でしか無いんだ」  よしここから意味が分からないぞ。ホントに日本語だったか? 「ごめん何が言いたいのか分からないよ」 「やはり君は物分りが悪いようだ」 「……あ゛?」  喧嘩売ってんのか……いや間違いなく売られてんのか。  いかんいかん冷静になれ。  頭のおかしいやつらと同じ土俵に上がるわけにはいかない。  ふぅ……と短く息を吐いて、笑みを浮かべながら彼らに向き合った。 「じゃあ、僕にも分かりやすく教えてよ」  僕が笑ったのが気に入らなかったのか、反対に彼らの表情が険しくなる。 「あの方に友人など不必要だと言う事です」 「なぜ?」 「言っただろ。あの方はあの方だけで美が完成してるんだ。友人だなんてそんな不必要なものはあの方の美の邪魔になるだけだ」  彼らから語られる倫理はやはり到底理解できそうに無く、ため息が出そうになるのを我慢した。  あまり煽るのも良くないだろうから。  だが、どうしても言いたい事がある。これだけは訊いておかなければならない。 「それは……ルイが望んだ事なの?」  

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