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86.恨むぞ先生!
「ひぁうっ!? や、やだやめ……っ」
耳元で叱られたかと思えばそのままカプリと噛まれて飛び跳ねた。
逃げる俺の体を片手で抱き寄せ耳に舌を入れられて擽られれば嫌でも体はビクビクと反応してしまい恥ずかしくなる。
「会長……っ、やだ……はな、ぁ……やぁっ」
しつこいほどの愛撫にだんだんと敏感になってきて熱い吐息がもれてしまう。
視界で揺れる金髪とクチュリと耳元で鳴る音から逃げたくて顔をそらしても会長の舌は追ってくる。
そうこうしている間に服の中に手を入れられ背中をなぞられていた。直接触れられる会長の手は少し冷たくて余計にその存在を感じてしまう。
「はな、して……くださいっ」
何とか止めてもらおうと会長の背に回っていた手で服を引っ張ればようやく耳から顔が離れて安堵したが、その油断が良くなかった。
「ふぐ……んっ!?」
ホッと息をついたその口に会長の物が重なり驚く。しかも開いていた唇からそのまま舌が侵入してきて、噛む度胸もない俺はもう閉じる事も出来ない。
後頭部を押さえられて強く押し付けられる唇からは全てを奪うような執着心が垣間見えて恐怖心が襲う。
何より、エメラルドグリーンの瞳が俺をとらえて離さないのだ。至近距離で視点は合わないが、ずっと見られている事は分かる。
「んん……ふ……ん、ん……っ」
乱暴な事をされているのに口の中をなぞる舌は優しくて、そのちくはぐさが更に恐怖を引き立てる。
それでも熱い舌になぞられ自分の舌に絡ませられたら息が上がってしまい、甘い吐息が漏れてしまう己が嫌だった。
頭が朦朧とし始めた頃に唇は離れ、涙でぼやけた視界にはやはり俺をじっと見つめる会長が居た。
「はぁ……はっ……うづき、かい、ちょ……」
どうしたら目の前の人物を止めることが出来るか考えるが、まともな答えも出ぬまま力なく名を呼ぶ。
すると会長は目を細めて俺の涙を拭うように頬にキスを落とした。
「あなたもあなただ……」
「ちょっ……ちょっとッ!?」
俺の後頭部に回っていたはずの手がいつの間にか俺のワイシャツのボタンを半分以上外してて慌てた。
しかも開けた胸元に顔を寄せられて、また会長の服を引っ張り止めようとしたが今度は止まらずそのまま舐められる。
「あんな平凡な男どもをあなたのそばに置くべきじゃないと何故分からない?」
「会長っ!」
叫んで背中を叩いたり服を引っ張ったりするが片手で強く引き寄せられていればあまり力は入らなくて行為を止められない。
自分と会長との体格差に舌打ちしたくなる。何でこの世界の人達はみんなデカいんだ。
「ひっ……ん……ぐぅ……っ」
「あなたに相応しい男は私だけだと何故分からない?」
会長の唇が俺の胸の突起に辿り着いて声を上げそうになるが、必死に下唇を噛み締めて耐えた。
「あなたのそばにいるべき人物は私だけだと、あなたは教えなければ分からないようだ」
「いっ……!!」
耐えていたのに、突然胸の突起を噛まれて痛みで短い悲鳴を上げてしまう。
「ひゃうっ! や、だっ、あっ……んんっ!」
一度出てしまった声は抑える事が出来なくて、噛まれて赤くなったそこを労るように舐められ舌で転がされたらその愛撫に合わせて気持ちの悪い声が出てしまう。
せめてもの抵抗でバタバタ足を暴れさせてみても股の間に入った会長は蹴ることすら出来なかった。
俺を引き寄せ抱きしめていない方の手がベルトにかかり、いよいよまずいと焦るが止めてくれと叫びたくて口を開けば出てくるのは気持ちの悪い喘ぎ声だけで、悔しさと恐怖でボロボロと涙が溢れた。
「やめ……ひぐっ、ん、あぅっ……や、だ……っ」
会長がやろうとしている事は分かっている。だから止めたいのにその術を持たない。
もういっそ諦めて身を委ねた方が楽になれるのだろうか、なんて絶望していたら、ふとズボンのポケットの存在を思い出した。
そこにあるじゃないか、抵抗出来る術が。
震える手でポケットを確認すると、あった、ちゃんと、ずっと持ち歩いていた物が。
防犯ブザー、帽子野先生から渡された、使うことは無さそうだななんて思っていたそれが、ポケットにあった。
最後の頼みの綱だった。
これだけ騒いでも誰も駆けつけて来ないこの部屋でブザーがどれだけ効果があるか分からないが、それでも非常を知らせる音に反応してくれる人がいるかもしれないと望みをかける。
カチカチと震える手でなんとか落とさないように掴み、会長の背後で防犯ブザーの紐を思いっきり引っ張ると小さな棒状の物が抜け、けたたましいブザー音が……鳴らなかった。
「……っ!!?」
『嘘だろっ!?』と言う叫びも出ないほどあ然とするのと、会長の手が俺のベルトを抜き取るのは同時だった。
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