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8.始まりました文化祭
そして来てしまった文化祭。
今ではオムライスに猫の絵が描けるようになった。
冷凍食品のチキンライスを卵で包んでオムライスにし、ケチャップでリクエストされた文字や絵を描くらしいが、これ別料金なんだろ? 注文する客は本当にいるのだろうか。
ちなみに俺はまだ、先輩や夢野に二人の関係を訊いていない。否、訊けない。
覚悟が決まったら、なんて思っていたが、食堂のおばちゃんからのあんな決定的な言葉を聞いてしまったのだ。覚悟なんて簡単に萎むのも仕方ないだろう。
あれから俺は悩んで悩んで、なんてしている暇は無かった。
文化祭の仕上げでみんな駆けずり回っていたからだ。
なんせまだ十代で計画性のない男子高校生。食料の調達やら内装のコーディネートやらが当日のぎりぎりまでかかってしまったのだ。
皆で苦労して作り上げた文化祭。ここまで来ればやっぱり盛り上がって欲しい。
だから俺も当日はいやいやでは無く胸を張ってメイド服を着た。今更恥ずかしがって場を盛り下げるような事はしたくない。
「「…………」」
「……いや何か言ってよ」
俺がメイド服に着替えるとクラスメート全員が俺を無言で見てきた。
言いたい事があるならはっきり言ってほしい。猫野には「うっわ似合わねぇっ!」ってはっきり言っていたじゃないか。
「やっぱりウィッグとメガネぐらいじゃ隠せないんだよなぁ……」
夢野が俺を見て重い口を開いたかと思えばしみじみとそんな事を言う。何を隠すつもりだろうか。
「ルイちゃんこれは危険だ。絶対俺のそばを離れるなよ? 俺が守るから」
「あ、ありがっ……ぶふっ」
猫野がせっかく何かかっこいい事を言っているところで申し訳ないが吹いてしまった。
誰だよ猫野にメイクしたの。おかめみたいになってるじゃないか。
こんな調子であるがとにかく文化祭はスタートした。
男子高でメイド喫茶なんてふざけた出し物に来てくれる人はいるだろうかと不安もあったが、始まって数秒でその不安は払拭される事になる。
「これ一番テーブルね!」
「オレンジジュース三個追加!」
「このオムライス持ってって良い?」
「は、はい! お願いします……俺今、木戸くんと喋っちゃった……」
「うるせぇ仕事しろ」
開店早々、学園の生徒や保護者のみならず他校の生徒や一般人も数多く訪れてくれた。
SNSで誰かが宣伝してくれていたらしく、ずっと前から楽しみにしていたのだとお客さんから伝えられる。凄いなSNS効果。
「うわめっちゃかわいいじゃん! マジで男かよ?」
「男でーす。あちらのお席にどーぞー。あとメイドさん特別オムライス注文してくれると嬉しいな?」
「するするー!」
メイドさん特別オムライスとはメイド役の子がケチャップでハートやら文字やらを書くサービスつきの例のオムライスだ。もちろん料金も特別。
それをサラッと勧められるのは流石夢野だと思う。あの可愛さがあるから許されるのだろう。
夢野は老若男女から人気で色んな人から声をかけられている。
それをスマートに対応してしれっと高いメニューを注文させる手腕は見事なのだが、そこまで完璧な対応をしていたらメインキャラクター達の活躍する場が無いのではないだろうか。
そしてそのメインキャラクターである猫野だが、若い女性と子供に囲まれていた。
女の子達からは「かわい〜ウケる~」と騒がれ、子供達は「オカマだオカマだ!」と群がっていて大変人気なようだ。
猫野ものりのりでセクシーポーズをキメたりして大いにウケていた。だが猫野よ、夢野にもっと構わなくて良いのか。
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