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20.先輩が悪い事を覚えてしまったかもしれない

   熱い吐息が混ざり合い、何度も角度を変えて唇を奪い合う。  お互いの体が強く密着しているのは、先輩が抱きしめるからか、俺が先輩にしがみついてるからなのか。  左胸は自分の鼓動を、右胸は先輩の鼓動を感じて心が満たされていく。  ずっとこうしていたいと思えるほどに、俺は今幸福を感じていた。  俺を抱きしめてくれる先輩の腕は力強くて、だけど優しくて、ゆっくりワイシャツを引き上げて俺の体に熱い手が触れて…… 「……あの、ヤるんですか?」 「そういう流れだろ」 「そ、そうかなぁ……」  俺としては今日はこのまま穏やかに過ごして先輩と今まで出来なかった色々な事を話したいと思っていたのだが。 「今日は……キスだけが良いなぁって思──」 「却下だ」 「俺が嫌だって言ったら触れないって言ったくせに!」 「お前が本気で嫌がったら止めるさ。だが今のお前は本気じゃねぇ」 「えぇー……」  俺は本音のつもりだったのだが先輩の言う通り本心は違うのだろうか。  そこまで考えて、はたと気づく。  今までこうやって流されてきたんじゃないか、と。 「……いえ、先輩。俺はやっぱり今日はヤりたくないです」  そうだよ、俺の本心は俺が決めるんだ。  あまりに自分の何もかもに自身が無くて先輩の言葉を真に受けていたが、これからはそうはいかせない。 「……じゃあ、キスだけなら良いか?」 「っ……あの、じゃあ、あと一回なら……」  これからはそうはいかせない、と意気込んだものの、なんかもう流されている気もする。  だがまたもやこんな捨てられた子犬みたいな顔で懇願されたら少しぐらい譲歩してやるかって思ってしまうだろう。  しかし、俺が了承したとたん先輩の子犬のような顔はすぐさま引っ込んでニヤリと笑ったもんだから、謀られたのだと気づいたがもうすでに遅かった。 「んっ……!」  すぐさま侵入してきた舌は俺の上顎をくすぐり、体がピクリと反応してしまう。  後頭部を大きな手のひらで固定されたまま深く濃厚に口付けられて、いつの間にかワイシャツの中に侵入していた手が優しく胸の突起をひっかいた。 「やっ……ふぁ……んぅ……っ」  先輩の舌に、指先に翻弄されて知らず上がる呼吸ごと先輩が奪っていく。  力が抜けてしまった俺の舌を絡め取られて甘噛されて、じゅぽじゅぽと吸い付かれた。  同時に触られていた胸はいたずらに摘まれたり爪を立てられたり、かと思えば労るように撫でられて、そのすべてに反応してしまう己の体が憎い。 「ん、はぁ……は……はぁっ」  濃厚すぎるキスから開放された頃には与えられた刺激と酸欠で頭が朦朧としていたが、訳が分からなくなっているうちに怪しく動いた先輩の手によって「ひゃうっ!?」と悲鳴を上げて思考が強制的にクリアになる。  先輩の手が、胸からずいぶん下まで移動していて、俺の下半身を掴んだのだ。 「勃ってんじゃねぇか……」 「〜〜っ!」  ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら俺の顔を覗き込む先輩に、俺は思わず顔をそらした。  先輩の言う通り、俺の中心はしっかり反応してしまっていたのだ。  あんな、性感を無理やり引きずり出すようなキスをしておいて、その張本人が何を言ってるんだ。 「こんなエロい体で我慢出来るのかよ……」  そらしていた顔の真横で息を吹き込むように囁かれ、そんな些細な刺激にすら体がブルリと震えた。 「せ……先輩のせい……っ」  そうだよ、全部先輩のせいじゃないか。  あんなキスをしておいて、男なのに胸なんかで感じてしまう体にしておいて、耳元で囁かれるのが弱いのを知っておいて、そんな意地悪な事を先輩は言うんだ。  悔しくて、でも体は先輩を求めてしまって、どうすればいいか分からなくなり助けを求めるように先輩を見た。  そしたら先輩はとても、そりゃもうとても優しく笑いながら、 「そうな、俺のせいだ。だから……責任取らなきゃな」  なんて言うから、俺はまた流される。  

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