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弱み
「好きです! 俺と付き合ってください……!」
「え、あ、俺?」
放課後、当番になっていたゴミ捨てをしている最中の出来事だった。
片手にゴミ袋を持った俺は、ゴミ捨て場の前で立ち尽くす。
そして周囲を見渡すが、この場に居るのは自分と彼だけで、やはり自分が言われているのだと自覚する。
「えー……っと、あなたは──」
「二年D組の遠山です!」
「はぁ、えっと、木戸ルイです……」
「知ってます!」
「ですよね」
それはそうだ。名前も知らない相手に告白などしないだろう。
そう、今俺は告白されているのだ。
しかし俺は彼を知らなかった。コミュ障の俺にクラスメイト以外で知り合ったは居ない。学年が違えば尚更である。もちろん付き合っている白伊先輩は例外であるが。
「……あの、俺今付き合ってる人が──」
「知ってます! あの不良ですよね?」
「不良……ですね」
しかし白伊先輩と付き合ってるいるのを知っているのは予想外だった。なぜ恋人が居ると分かっている相手に告白するのか。
「……あんな不良はアナタには相応しくないと思います」
「へ……」
すると、まるでこちらの思考を読んだかのような言葉が返ってきた。
だがまさか突然恋人を批判されるとは思わず、俺は咄嗟に言葉が返せなかった。
すると彼は、調子に乗ったかのように多弁になる。
「そもそも木戸くんに似合う人間が居るとは思ってないですけどね! しかしあんな不良はあまりにも不釣り合いでみんな首を傾げてるよ……。良いのは顔と喧嘩が強い事だけだろ? あんなやつをキミが相手するはずないのに、本当は何か弱みを握られてるんだろ? 大丈夫! 俺が必ずキミを守るから!」
見知らぬ先輩は、戸惑う俺に構いませずまくし立てる。
呆気にとられていた俺だが、内容が頭に入ってくるとだんだん腹も立ってきた。
アンタに先輩の何が分かるんだ。
「あの……っ!」
「そーだよ、俺がコイツの弱みを握って付き合ってんだよ」
「「えっ」」
ゴミ袋を持ったまま、顔を上げてキッと睨みつけた時だった。
突然割り込んできた声に、俺も見知らぬ先輩も驚きの声を揃えた。
「テレビに夢中の時は自分のパーカーのうさ耳をもふもふしたり顔でスリスリしたり筋肉がつかねーの気にしていた動画検索しまくったり、かと思ったら上手なキスの仕方なんて検索して実行しようとしてもちょっと唇噛むだけでトロ顔になって何もできなくなったりを知ってるのは俺だけだからな。バラされたくなかったら付き合い続けるしかねーだろ」
「ちょっ、なっ……!! はぁっ!!?」
突然出てきたかと思えば何言ってんだこのろくでなし! うさ耳なんてもふもふしてない! してない……よね?
「あとコイツがソワソワしてる時は行ってみたい場所があるが人が多くて尻込みしてる時だ。それを察して強引にでも引っ張ってって周りを蹴散らせるのも俺ぐらいなもんだろ。だからコイツは俺と付き合うしかねーんだよ」
「……っ!!!」
バレてた。
俺の思考などお見通しだと言わんばかりに語られて、言い返したくても言葉が出ない。
悔しいがその通りだからだ。
「テメェも悔しかったらそんぐらいの弱み握ってみろや。まぁ顔も喧嘩も度胸も俺の足元にも及ばねぇお前にゃ無理だろうがな」
「な……っ」
ゴミ袋を持って抵抗できない俺を、先輩は背後から抱きしめて挑発的な声を出す。
すっかり存在を忘れていた名も知らぬ先輩は、呆気にとられていた顔をみるみる赤くする。
人前でこんなに密着するのは恥ずかしいが、今は大人しくしておく方が良いのだろう。
そう考えてさりげなく自分からも先輩の頬に頬ずりをしたら、それを見ていた彼は気まずそうに目を逸らした。
「……き、木戸くんの目が覚めたら……俺の所においで……」
「……」
たぶんそんな日は来ないだろ事を自覚しているのか、肩を落として去っていく名も知らないままの先輩を見送る。
姿が見えなくなると、俺はほっと肩を落とした。
「──……ていうか、人に言っちゃったら弱みでも何でもなくなっちゃうんじゃ……」
「あと百個ぐらいあっから大丈夫だろ」
「俺が大丈夫じゃないやつっ!」
さすがにハッタリだろうが、この人ならホントに俺の俺も知らない秘密を持ってそうで怖くなる。
本当に俺はうさ耳をもふもふしていたんだろうか。
「ところで……いいかげんゴミを捨てて手を洗いたいんですが」
「じゃあそれ終わったらさっきのもっかいしろよ」
「さっきのって?」
「俺が抱きしめた時してきただろが」
「……」
「……頬にすりすり──」
「いやですよ……!」
強めに否定しておいたが、先輩は言い出したら聞かないことを俺はよく分かっている。
それに、さりげなく俺の望みを叶えてくれていたんだと知ってしまったから、今回だけ、特別に甘えてあげる事にした。
【おわり】
※お知らせです
エクレアノベルス様から発売してもらえる運びとなりました。
5月3日(土)ピッコマにて先行配信!
タイトルは『転生したBLゲームの世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない』に変更になっております(^^)
Web版は引続きご覧になれますのでこれからも応援のほど宜しくお願い申し上げます!
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