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第38話 愛を知らない犬と夜の羊④

「すごい、スウードの……奥っ、子宮に当たってる……!」  ルシュディーが何度も奥の壁に打ち衝けるように腰を揺さぶると、茎がまるで搾り上げられるように強く締め付けられて、抑えられないほどの快感が身体を襲った。  彼の引き締まった腹筋と太腿に汗が伝い、脚の付け根で彼の茎が頭を擡げ下着を濡らしている。  快楽を貪るように腰を振る淫らな姿に、血が滾るような感覚に陥る。 「あっあ! きもちぃ……! これだめッ……イくっ……!」  ルシュディーが仰け反りながら激しく腰を痙攣させる。と、中が急激に収縮し茎に強い刺激を受けた。  まずい、このままでは──。  一気に昂るのを感じ、僕は慌てて身体を起こしルシュディーを押し倒した。驚きの表情を浮かべる彼を見下ろし、僕は彼の中から茎を引き抜いた。 「う、くッ……!」  その瞬間、僕の身体を快感が頭の天辺まで突き抜けていき、目の前が一瞬真っ白になった。  呼吸を整え、少しずつ思考が回り始める。そうして正気に戻り、ルシュディーを見下ろすと、彼の腹部から胸の辺りまで白濁が飛び散っていた。 「中に出して、よかったのに」  そう言ってルシュディーの手が頬に伸ばされ、顔が近付く。 「ひぃやあああっ……!」  僕は今まで出したことのない叫び声をあげて飛び上がり、ベッドの端まで後退した。自分が今ルシュディーと何をしたのかを真に理解して、羞恥と懺悔がぐるぐると胸の辺りに渦巻く。心臓が口から飛び出そうなほど高鳴っている。 「ななな何でこんな……!」  ここは娼館とはいえ、話を聞くだけのつもりだった。性行為なんて、ほんの少しも考えていなかった。それなのに僕は今彼と身体を──全身赤くなっているのではないかと思うほど顔が、身体が火照っている。 「ご、ごめん! ここまでするつもりなかったんだよ、マジでッ!」  近付いて来ようとしたルシュディーに身体を縮こませ身構えた。ルシュディーは小さく溜息を吐いて、悲しげに目を伏せる。 「……嫌いになった?」 「嫌い、にはならない……というか、僕は君をよく知らない、から……」  ルシュディーは「そっかあ」と言って笑うと、棚の上に置いてあった布を水桶に浸けて、絞った布で腹から胸の辺りを拭き始めた。思わず自らの所業を思い出して顔を覆う。 「おれもスウードのことよく知らない。あんたがおれの運命だってことと役人だってこと以外は」  ベッドが揺れて指の間から様子を見ると、ルシュディーは僕から少し離れたベッドの縁に座っていた。 「おれ、本当は話したかっただけなんだ。でも、あんたに当てられたっていうか……まるで発情期みたいに身体が勝手に求めるんだよね。こんなの初めてでさ。本能であんたのものになりたがってるんだなって感じる」  その彼の言い方がどこか淋しそうで、僕は顔を覆っていた手を離した。しかしルシュディーの表情は朗らかで、僕が感じたものは気のせいだったのだろうか。

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