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第60話 運命はただそこに⑩

「ルシュディーのケチっ!」  注文の品を取りに行って城に戻ると、ちょうどロポが外から戻ってきたところのようだった。が、何があったのか、頬を膨らませてルシュディーに怒っている。 「もう外でこれ以上買い食いしたらダメだって言ってるでしょうが! 最近太ってきてるって医者に言われたんでしょ!」  何となく事態を把握し、苦笑いを浮かべていると、ルシュディーが僕に気付いて手を挙げる。と同時にロポが「あっ」と声を上げて、僕のところに走ってくる。面倒なことに巻き込まれてしまった。 「聞いてよ、スウード! ルシュディーがアルからお小遣い貰ってるのに屋台で食べ物買っちゃダメって言うんだよ!」 「そ、そうか……でも、厨房係も頑張ってバランスの取れた御飯を作って待ってるんだし、外で食べ過ぎて入らなかったら可哀想だから、空腹で帰ってきた方がいいかもしれない」 「うー……確かにそうかも……」  ロポの後ろからやり取りを見ていたルシュディーが笑って親指を立てる。 「あれ、その包みなんだ? 何かのお遣い?」  ルシュディーは僕が手に持っていた包装された長方形の薄い箱を見詰めた。ここで隠すのも妙だし、ロポの前だけれど、と思いつつ、包みをルシュディーに手渡した。 「僕から君への贈り物だ。開けてみて」  驚いたように目を丸くした後、包みのリボンを解き包装紙を破る。そして、真っ白な箱の蓋を開けた。 「これって……」  銀色の簡素なデザインのネックレス。そこにひとつ赤い石――ルベライトがついていた。 「両親の思い出のネックレスに、石を付けてもらったんだ。僕はアクセサリーを身に付ける習慣が無いから、できれば君に付けて欲しくて」  ルシュディーは呆然としてネックレスを見詰めている。僕はネックレスを手に取り、そっとルシュディーの首に掛けた。 「よく似合ってる」  石をじっと見詰めた後、顔を上げたルシュディーの眼にはうっすらと涙が浮かんでいた。 「ありがと……一生大事にするから!」  そうルシュディーは嬉しそうに笑うと、次の瞬間には僕に抱きついていた。顔を真っ赤にする僕を見て、ロポが声を上げて笑う。  その後、通り掛った陛下がロポから贈り物を強請られたのは言うまでもなかった。  「幸運」という名前を貰ったひとりの犬は、壁向こうに在った「運命」に辿り着いた。それは正しく、僕の名前の通り、「幸運」であり、たったひとつの「幸福」だった。

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