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憧れの人
嫌な思い出ほど忘れてくれない。
たかが初恋が破れただけの話。
だけど好きだった人に自分の霰も無い姿を見られ、嘲笑われるのは渉太にとっては屈辱で、心が縮む程のことだった。
前へと向く為に地元を離れ、変えた環境も過去が足枷になってなかなか踏み出せずにいた。
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窓から見える家の灯りは消え、大半がが寝静まっているであろう深夜帯。
早坂渉太 は自宅で大学のレポートを仕上げながら世間で知らない人はいない、人気アイドルの浅倉 律 のラジオを聴いていた。
『えーっと続いてのお便りです。ラジオネームしょーたさん。20歳の大学生の方からです。律さんこんばんは。こんばんはー。僕には好きな人がいます。しかし、人付き合いが苦手で好意を寄せている人は疎か友達ですら、自分は嫌われるのではないかと怖くて他人と深く関わることがきません。どうしたら人と距離を縮めることができますか?律さん、アドバイス頂けたら嬉しいです』
不意に読まれた文章に送り覚えがあるだけに動かしていたペン先が止まる。
1週間前にただ憧れの人に読まれたくて書いては差程期待はせずに送った。
丁度恋愛相談のコーナーを募集していて自分も半ば諦めな気味な悩みがあったから送ってみた。
まさか本人の目に止まるとは思わず、渉太は嬉しくもあり恥しくて椅子に正座をしては身を屈ませ、動揺で膝の上でペン先をカチカチと出し入れを繰り返していた。
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