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大樹先輩の彼女
律仁さんのことは複雑ではあったが、律からのサインは素直に嬉しかった。
何度も見返しては頬を緩ませるを繰り返す。
結局自分はあの人にして貰ってばかりいる。
芸能界に知り合いがいるというだけで俺のために律のサインを貰ってきてくれた律仁さん。そこまでするってことは、本人が訴えてきた通り本気で·····。
あの日以来、律仁さんは度々構内ラウンジに現れるようになった。
向かえに座る律仁さんを気にしながらも、学生のご身分では考えられない焼肉弁当を目の前にして生唾を飲む。しかも絶対チェーン展開してる店のじゃない。
プラスティックパックでもなく紙の箱のそのお弁当を触るのですら緊張する。
渉太もアルバイトはしているが給料なんて雀の涙程なので贅沢にお弁当を毎日買えるほどの余裕はない。
「いいんですか·····」
「もちろん。渉太、見る度いつもおにぎりじゃん。たまにはね?」
特にお昼にお腹を満たす分には|拘り《こだわり》はなかったし、たまにコンビニのお弁当にするものの、主におにぎりとお茶で凌いでいた。
渉太は滅多にありつけない弁当につい目を輝かやかせていたが、律仁さんに奢ってもらうのに気が引けていた。
かと言って、明らかに自分の分と律仁さんが食べるように二つ出されているお弁当を頑なに断るわけにもいかなかった。
「あの、弁当代いくらですか。俺払います」
考えに考えた結果、このお弁当代を払うという結論に至った。金額を聞くのが恐ろしいが·····。
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