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律仁さんは徐ろに顔を上げると「ごめんね。ありがとう」と呟いた。
「あの記事はほとんど嘘だし…言い訳に聞こえるかもしれないけど、ドラマ終わったら俺が律だってこと渉太にちゃんと話そうと思ってたんだ……」
律仁さんが泊まったあの朝の寝惚けた頭で囁かれたことを思い起こさせる。
あの時は意味が分からなくて眠りから完全に醒めていなかったせいか、何を……?なんて寝惚けた頭で律仁さんの言葉に問いかけていた。その全ての答えが今だ。
「大丈夫です。記事のことは俺も信じてませんし、大樹先輩に全て聞いたので……」
「そっか……」
「でも、こうやって話してると普段と変わらないので実感はないです。さっきは…テレビで見たまんまだったので気が動転しました…なんで隠してたんですか?」
図々しいと思われるかもしれないが、それくらい聴く権利はあっていいと思った。
初めて会った飲み会で律仁さんは自分をなぜ介抱しようと思ったのか、そして唐突に自分に好意を示してきたのは、どういう意図だったのか。
「通教生だって嘘までついて……」
律仁さんが律だと知らされた時点で、律仁さんが同じ大学の生徒だということは嘘とも言いきれないが過去形の話だとすぐに分かった。
律は確かに自分が今通っている大学に進学していた。しかし、3年前に卒業している。
その事をニュースで取り上げられていたのを見て自分も同じ大学に進学しようと決意を固めたのだからこの情報は間違いなかった。
「やっぱり渉太は律のこと詳しいんだね。こんなこと言うのは自分勝手かもしれないけど、律が好きな渉太に芸能人としての俺で見られたくなかったんだ……」
俺に芸能人として見られたくなかった……。
それはどういう意味なんだろうか……。
単純に騒がれたくなくて…?
じゃあなんで自分が撮影現場にいた時、あんな対応してくれたんだろうか。
握手だけじゃなくて、サインだって…。
思い返せば、律の影をチラつかせている場面が時折あった。今思えば律仁さんだから…本人だから簡単に名前入りのサインを貰うことが出来たのだと納得がいく。
だけどそれは、律だと隠していたとしたなら、盲点になってしまう行動。
「なら、なんでサインとか握手とかしてきたんですか?……俺がもし、勘が良かったら律仁さんが律だって気づいてたかもしれないんですよ?律仁さんは矛盾してます…」
別に問い詰めるつもりはなかったけど、律仁さんの真意が知りたくて無意識に熱が入り、渉太の口調は気づいたら強くなっていた。
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