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第一章 案外優しいじゃん

 この街は、日が暮れてからが明るくなる。  賑やかなネオン。  人々の雑踏。  クラブ、バー、スナック、キャバレー。  そしてそれらから少し奥に進んだところに、風俗の店がある。    久貝 慎也(くがい しんや)は、そこを一人で歩いていた。  黒髪はショートで、柔らかなウェーブがかかっている。  背は高く、肩幅が広く、彼を知らない人が見るとアスリートと思うかもしれない。  スリーピースの黒いスーツに身を包み、サングラスを掛けている。  そんな慎也を、値踏みしている人影が。 (高そうなスーツ。きっと、アルマーニかなんかのブランドだ)  サングラスで表情は見えないが、凛とした雰囲気を醸している。 (きっと、イケメン。そして……、お金持ち!)  そう判断すると、芥川 悠(あくたがわ ゆう)は小走りで慎也に近づいた。  不意をついて、腕に手を絡ませる。 「ね、お兄さん。僕と遊ばない?」  悠は、自分の容姿に自信を持っていた。  栗色の、サラサラヘアー。  白いきめ細やかな肌に、整った顔立ち。  こんな美少年に誘われて、断る男は今までいなかった。  だがしかし。 「見ない顔だな。誰に断って、ここで商売してる?」  慎也の低い声に、悠は震え上がった。 (こ、この人ヤクザだ!)  何てことだろう。  この界隈を仕切るヤクザに、悠は声をかけてしまったのだ!

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