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「誰だよこんなくっそみてぇなレイアウト組んだ奴はよー……」 ディスプレイをにらみながら思わず漏れた声に、向かいの通路を歩いていた女子社員が怯えた表情をした。その視線にさえ苛立ち、がつんと勢いをつけてエンターキーを押した。八つ当たり以外の何者でもない。 単に広告を作るだけ、と言っても、仕事にはいくつかのパターンがある。一から自分でデザインできればまだ楽で、クライアントが半端に作った広告を俺が修正する場合もある。これがなかなか面倒な作業だった。複数の案件が立て込み、時間が限られているときほどこうした仕事が増えるのが不思議だ。 「あーもうったくよお……」 それは自分に対する怒りだ。俺が高い信頼を勝ち取る身になれば、雑用じみた仕事も減っていくはずだ。 学生時代は、自分の作るものには価値があるのだと思い込むことができた。しかしばかげた思い込みは、社会に出ると呆気なく消え去ってしまった。あの頃の無意味で無敵な心情など、今となっては実家のタンスや引き出しを探したって見つけられないだろう。 「あの、深瀬さんすみません」 「あん?」 背中を丸めてディスプレイをにらんでいると、ふいにパーティションから中野が顔を出した。 「ちょっと分かんなくなっちゃって、見てもらっていいですか」 重い腰を持ち上げ立ち上がり、後ろから中野のディスプレイをのぞきこんだ。随分初歩的なミスが原因でつまづいているようだった。こんなことで作業の手を止めさせられたのか、と思わず溜息をついた。 「この程度の操作くらい覚えておかねえとなんもできねえぞ」 「すみません、まだソフトに慣れてなくて」 そりゃそうだ。なんせ先月まで大手出版社にお勤めだったのだから。十分に納得できたからこそ、苛々は湧き上がったのだ。我ながら情けなくなるのだが、やはり八つ当たり以外の何者でもない。 「うちは有名な出版社とはちげーからなあ」 「……はい」 「みんなで協力して納得いくまでやり直して百点満点の一冊を作り上げましょうね、って仕事じゃねえんだよな。時間も限られてる中で毎日コンスタントに及第点のモン作んなきゃいけねえんだ」 俺は中野の返事を聞かぬまま自分の座席に戻った。八つ当たりの上に言い逃げだ、どうしようもない。根源は、嫉妬心だった。 ツールの扱いさえあやふやなあいつは、それでも見惚れてしまうようなデザインを完成させている。根拠のない思い込みすらできなくなった今の俺では、納得いくまで何度やり直したってあのクオリティのデザインは生み出せないだろう。 自分の幼さに反吐が出そうだ。頭を抱えながら、どうにか最後の気力を振り絞りディスプレイに向き直るが、なんの魅力も感じられないデザインが収まっているだけだった。

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