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おひさま

「僕のことどう思う?」 放課後の教室に二人きり、向かい側に座っていた君が真っ直ぐに俺を見つめてくる。 突然そんな質問をされても、答えなんて持ち合わせていない。 俺はただ、見つめられる視線から逃れることができないでいた。 高校に入学してまだ1ヶ月。 特別に仲がいいやつもいるわけじゃない…。 だからといって、1度も話したことがない、それも男からの質問に答えられるほど出来た人間でもない。 「君さ、すごく睫毛長いよね」 ぐいっと顔を近づけてくると、まじまじと目をパチパチさせながら覗き込んでくるから、思わず顔を逸らした。 「あっ、ゴメン…」 小さく謝り、サッと俺から離れて鞄を手に持つと、君はそのまま教室を出て行ってしまった。 書きかけの日誌は止まったまま、俺は机に伏せる。 君の真っ直ぐに俺を捉える瞳が頭から離れなかったから…。 次の日から、俺の中で何かが変わり始めていた。 昨日まで意識をしたことのなかった君の存在をどこかで探している。 見つけるのは簡単だった。 だって君は、いつでもたくさんの仲間の中心で眩しいくらいの笑顔を見せていたから…。 そんな君をいつしか目で追っている自分がいた。 あんな質問をしてきたのは君なのに、あれから俺たちは1度も話していない。 俺は毎日、その太陽のように光輝く君を見つめていた。 ーガラーッー 放課後の教室で1人、日誌を書いていると、教室のドアが開いた。 入り口へ目を向けると、そこには俺の姿を見つけて立ち止まっている君がいる。 すぐ視線を逸らし、再び日誌を書き始めた俺の向かい側に、君がそっと腰を下ろした。 「忘れ物?」 「うん、まあ…」 顔も上げずに問いかけた俺に、短く答えた君。 それなのに全く立ち上がろうともしない。 「まだ何か用?」 「やっぱり睫毛長いよね」 「えっ…?」 顔を上げれば、すぐそこに君の顔があって、また真っ直ぐに俺を見つめてくる。 どくんと胸が音を立てる。 「僕のことどう思う?」 あの時と同じ質問をしていた君に、俺はこう答えた。 「おひさま…」 「ぷはっ、何それ…」 「だって、君はいつも輪の中心でキラキラしてるから…」 「ふふっ、そんなふうに感じてくれてたんだ。初めは何も答えてくれなかったのにね」 「あれはだって…」 「でも、何か嬉しい。ありがとう」 照れくさそうに少しハニカミながらお礼を言う君が何だか可愛くて、俺は無意識に君の腕を掴むと自分の方へと引き寄せた。 「じゃあ、責任取ってよ」 「責任って…?」 「俺を好きにさせた責任」 「それだったら、喜んで」 ニコッと微笑んだ君を、グイッと更に引き寄せて、俺は君にキスをした。 「大輝…」 「僕の名前…」 「知ってるに決まってるじゃん」 「そっ、だよね。じゃあ僕は…拓真?」 「んっ?」 「ふへへっ…改まると何か恥ずかしいや」 「今さら? 自分のことどう思う?って聞いてたくせに…」 「もう…」 「うそ…。大輝、好きだよ」 「うん…僕も。ずっと好きだった」 「ずっと?」 「そう。ずっと…」 「いつから?」 「うへへっ…それはナイショ…」 「教えてよ」 「ダメ」 頑なに教えてはくれない君だけど、何かを思い出したようにクスッと笑った。 その笑顔は、やっぱりおひさまのようにキラキラ輝いていた。

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